東京・ミニシアター生活

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【12/1公開】『彼が愛したケーキ職人』エルサレムの日常、そしてLGBTの境界をなくす愛

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1人の男を「恋人として愛した男」そして「夫として愛した妻」。突然、男が不慮の死をとげ、行き場のなくした愛を抱えた2人は途方に暮れてしまう。やがて男の生活拠点であったエルサレムの街で、同じ男を愛した2人は出会い、それぞれ切ない秘密を抱えたまま、ケーキ作りを通し、傷を癒し合う。しかしほどなく、互いの秘密を知ることに……。

愛する人を失ったとき、人はどうやって立ち直るのか? 失意の人々を見守るような人間賛歌だ。また世界が注目する街”エルサレム”の暮らしぶりを知ることもできる。
2018年12月1日(土)、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次公開

妻子ある男と育む穏やかな愛

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仕事先のドイツで知り合った腕のいいケーキ職人の青年・トーマスと恋に落ちたイスラエル人の中年男・オーレン。しかしオーレンには妻子がいる。だからトーマスは、仕事という大義名分のもと彼がドイツにやってくるのをひたすら待つ身。

妻子を憎むわけでもなく、穏やかな愛を育むトーマスは、オーレンに「妻をどんな風に抱くのか」とたずねるときも、エロティシズムを楽しむように微笑み満足げだ。
こんな愛の形もあるのだろうな、となんとなく飲み込めてしまうのは、トーマスの品のある優しげな表情と、若干むっちりしたリアルな肉体(失礼!)の賜物ではないだろうか。主人公に抜擢された俳優ティム・カルクオフは、ドイツ出身のまだ無名な俳優だが、深い愛情を備えているという説得力が感じられる。

舞台は哀愁あふるるエルサレムへ

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イスラエル人であるオーレン一家が住んでいたのは、イスラエルでありパレスチナ自治区でもある、3つの宗教の聖地・エルサレム。複雑な背景をもつ多民族都市で、世界から注目される哀愁漂う街だ。
オーレンの妻アナトは、休業していたカフェを再開するにあたって「コシェル(ユダヤ教の戒律に従ったことを示す食物規定)取得」を掲示する。

コシェルとは、聖書に基づいた食物に関する事細かな決め事で「乳製品と肉類は同じ皿やシンクを使って調理できない」など、ユダヤ教徒にとって飲食の重要な基盤であり、外国人にとってはことさら禁をおかしがちな、わかりにくい規定だ。
当然、ケーキ職人のトーマスの前に、コシェルは大きな壁として立ちはだかり、自分が異邦人であることを思い知らされるきっかけになる。

作品のメインテーマではないが、本作を観れば、エルサレムの街の雰囲気、そして人々がどんな暮らしぶりなのかを垣間見ることができる。ゲイである男性がこの街で暮らしたら、どのような生活になるか、といったことも作品を観ている中で、ある程度想像できるだろう。

ユダヤ教をどのように意識して暮らしているかには個人差もあり、しばしば、個々の戒律についてのポリシーの差で、家族が断絶されてしまう場合もあるようだ。そんなエルサレムの暮らしの匂いを背景に感じ取れる、貴重な作品だ。

 

目にも美味しい、スイーツ& スイーツ&スイーツ!

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作中に登場するケーキやスイーツも、本作を楽しむポイントになるだろう。トーマスの作るスイーツの、一つひとつの美味しそうなこと!

シンプルなシナモンのクッキーですら、香ばしさと心地いい食感が伝わってくるようだ。フルーツを使った濃厚そうなパイや、ビタースィートであろうチョコレートケーキの美しさ。華美ではなく、手をかけ味を吟味したであろう、丁寧な仕上がりやネーミングにうっとりしてしまう。

『彼が愛したケーキ職人』みどころ

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  • セクシュアリティを超え、多様性を感じるラブストーリー
  • 宗教と世俗に揺れる、エルサレムの人々の生活
  • 喪失感いっぱいの登場人物が再生していく姿に勇気を得る
  • おいしそうなケーキ&スイーツが登場
  • 主人公に抜擢された新人ティム・カルクオフの魅力
  • クライマックスで明らかになる秘密

「新しいLGBT映画」とも呼ばれている本作は、LGBTへの理解をより深め、身近に感じるきっかけにもなるだろう。この作品には、さらに先にある、セクシュアリティの境界を消し去るような深い愛情が姿を現わす。

また、本作で頭角を現したティム・カルクオフは2018年「ヴァラエティ」誌が選ぶ「観るべきヨーロッパの10人の俳優たち」の1人に選ばれている注目株。フレッシュな俳優をチェックするいい機会だ。

また、作品にミステリー要素を与えている、アナトの抱えた秘密が明らかになるときが、大きく心を揺さぶられる瞬間でもある。

作品ニュース

かわいい前売り券購入特典

劇場窓口で前売り券を購入すると、クッキー柄のマスキングテーププレゼント。数量限定とのこと。

 

東京国際映画祭での上映も好評

先日行われた「第31東京国際映画祭」上演されている本作。プロデューサーが実子と登壇し、会場を盛り上げた。作品も好評で、12月1日の公開を心待ちにしている人も多いようだ。


オススメしたい『彼が愛したケーキ職人』

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普段知る機会の少ないエルサレムの日常を背景に、最愛の人の死によって、喪失感にさいなまれた人々が再生してゆく、時の流れを描いた本作。恋人の家族にも住む街にも愛着を感じるようになっていくトーマスの、寛容な愛し方にも心惹かれる。

登場人物たちが、ケーキ作りを通して心を通わせていく。そんな”ベーキングの力”にも気づかされる 、哀愁とともに深い温もりも感じられる作品だ。
LGBT、エルサレム、イスラエル、喪失感からの再生、ケーキ作り。1つでも気になるキーワードがある人にはおすすめしたい。


『彼が愛したケーキ職人』作品情報

【あらすじ】
ベルリンで小さいながらも評判のカフェ&ベーカリーを営む青年・トーマスは、なじみ客の男性・オーレンと恋に落ちる。ドイツとイスラエルの共同事業の会社で働き、ドイツとイスラエルを行き来しているオーレンは、ドイツではトーマスと過ごし、エルサレムでは妻・アナトと子どもの元へ帰っていく。あるとき、1ヶ月で戻ると言っていたはずのオーレンが戻らず、不安にかられたトーマスは、別件の用事のふりをしてオーレンの会社をたずね、そしてオーレンの事故死を知る。

そのころ、エルサレムの町では、オーレンの妻・アナトが、亡くなった夫の手続きを片付け、新たにユダヤ教の戒律に従ったことを示す食物規定の認定を取得。休業していたカフェを再開していた。そこへ客を装いつつやってきたトーマスは「この店で働きたい」と申し出て、たまたま困っていたアナトにタイミングよく雇い入れられる。
やがてトーマスの作るケーキやクッキーが評判となり店は繁盛し、トーマスは居場所を見つけ、夫を失ったアナトもまたトーマスに癒される。しかしそれぞれがかかえていた、秘密をお互い知ることになり……。

 



監督・脚本:オフィル・ラウル・グレイツァ
出演:ティム・カルクオフ、サラ・アドラー(『運命は踊る』)、ロイ・ミラー、ゾハル・シュトラウス(『レバノン』)
 ほか
英題:THE CAKEMAKER
(日本語字幕:西村美須寿/ヘブライ語監修:根本豪)
配給:エスパース・サロウ 後援:イスラエル大使館
<2017/イスラエル・ドイツ/ヘブライ語・ドイツ語・英語/スコープサイズ/カラー/5.1ch/109分/PG12>
2018年12月1日(土)、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次公開

ⒸAll rights reserved to Laila Films Ltd.2017

cakemaker.espace-sarou.com

 

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