東京国際映画祭、アジア・フィルム・アワードなどで、数々の映画賞を受賞。初の長編作品にして「非常に良くできている」と多くの映画人をうならせた。クライムムービーだが、観客は通常の作品とは一線を画す、意外な後味を味わうこととなる。
香港返還直前の中国の小さな町が舞台。庶民にとって心もとない時代に「猟奇殺人事件の真相を暴くこと」に生きがいを見出した、男の生き様はあまりに切ない。
2019年1月5日(土)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
刑事物でも探偵物でもない、猟奇殺人事件を追うミステリー
本作の主人公は刑事でも探偵でもない。工場の警備をしている素人の男であるのが、この作品の大きな特徴だ。
描かれる時代は1997年、香港が英国から中国に返還された年。主人公である警備員のユィは、職場の製鉄所が寂れていくことで、時代の変化を思い知らされる日々を過ごしている。そんなとき、女性が被害者の連続猟奇殺人事件が起こる。
そんな生活だからこそ「なんとか手柄を立てたい」という野望に火がついたユィは、周囲の人々を巻き込みながら、犯人を捕まえることに固執していく。
1997年の中国の空気感をリアルに描く
激動の時代となった90年代の中国には、独自の雰囲気があるのだという。急変しつつある時代の中で、躍進する人々と、取り残されて無力感にさいなまれる人々は、確実に分断されていったのだろう。
企画・脚本も担当しているドン・ユエ監督は、資料を集めリサーチを行い「90年代の中国」を色濃く残す地域を探し、最終的に湖南省でロケを行った。
常に雨に濡れそぼつ荒涼とした町は、憂鬱ながら、観るものを惹きつけてしまう哀愁の風景といえるだろう。
人間というミステリー、その謎と闇の深さ
猟奇的な連続殺人事件は、事件に執着するユィの身近なところで起き続ける。すぐそばに犯人の匂いを感じているユィは、まわりの人々を巻き込みながら真相に近づこうと突き進む。
何かに執着する人の心は、暴走するものだ。やがて自分ではコントロールできなくなっていってしまう。人間というミステリー、その謎と闇は予想外に深く、だれもが永遠に解くことができないのかもしれない。
本作には、そんな人間の心理そのものを差し出されたような、えも言われぬ味わいがある。謎解きの後に、より大きな謎が残るかもしれない。心して観るべき濃厚な作品だ。
女優ジャン・イーイェンの鬼気迫る演技
謎めいた恋人イェンズを演じるのは、ジャン・イーイェン(江一燕)。彼女が登場すると、その存在感に画面が支配されるような強烈な力を感じる。
自分を事件に巻き込んでいくユィに真正面から挑む場面では、静かな狂気を漂わせる。ユィ役のドアン・イーホンに迫る表情と間。その緊張感がたまらない。今後も活躍が楽しみである。
作品ニュース
「何度も観たくなる」という前評判にリピーター割引決定!
ミステリー作品には、さまざまなヒントが散りばめられているものだが、本作には観終えた後に「あれ?」とふと引っかかり、確認したくなるシーンや一瞬が、幾つかあるはず。人によってもそのポイントは違うかもしれないが、2回3回と繰り返し観たくなる人もいるだろう。
公開前にリピーター割引が決まったのは、その前評判ゆえだろう。
「迫り来る嵐」
— 映画「迫り来る嵐」 (@semarikuruaras1) December 19, 2018
【コメントチラシ完成】公開劇場で配布予定です!
【リピーター割引】「伏線が多いので確認したくなる」「ダークな世界がクセになる。もう一度観たい」という方のために、半券提示で¥1000!のリピーター割引実施決定!下記HPの★マークの劇場にて実施決定!https://t.co/GMRR1nRCsA pic.twitter.com/jFHL7x6rVB
まだまだ伸びしろあり! 台湾で映画賞受賞
また新たに受賞歴を重ねている。アジアを中心に高い評価を得ている。今後世界へと評判が行き届くことを期待したい。
「迫り来る嵐」が台湾のアカデミー賞、金馬奨で国際批評家賞を受賞しました!!!ドン・ユエ監督おめでとうございます!!!https://t.co/nq2Pizgnxn pic.twitter.com/6TCAY0slFE
— 映画「迫り来る嵐」 (@semarikuruaras1) November 20, 2018
オススメしたい『迫り来る嵐』
- 香港返還目前の哀愁あふれる中国と、その時代の人々をリアルに再現
- 通常のミステリーではないダークな後味、狂気と緊張感に満ちた演出
- リピートしたくなる、緻密な仕掛け
- 人の心理に潜む謎について考えられる作品
- 驚きの真実が明らかに……
時代に追い詰められた男の身に起こったミステリー。猟奇的な連続殺人事件の真実はいったいどこにあるのか?
その結末を見届けたうえに、さらなるミステリーが用意されている。ぜひ劇場でこの世界観を体験してほしい。
『迫り来る嵐』作品情報
【あらすじ】
1997年、中国の小さな町の国営製鉄所で働くユィは、泥棒検挙で実績を上げている警備員。近隣では猟奇連続殺人事件が起こっており、3人目被害者が発見される。ユィは現場に赴くと、懇意にしている警部から情報を聞き、刑事気取りで事件に首を突っ込んでいく。ある日、不審者を見つけたユィは、製鉄所の部下リウとともに、危険な追跡をするが……。
監督・脚本:ドン・ユエ(董越)
出演:ドアン・イーホン(段奕宏「ミッション:アンダーカバー」)、ジャン・イーイェン(江一燕「レイン・オブ・アサシン」)、トゥ・ユアン(杜源「草ぶきの学校」)、チェン・ウェイ(鄭偉) 、チェン・チュウイー(鄭楚一) ほか
原題:暴雪将至 英題:The Looming Storm
配給:アット・エンタテイメント
<2017年/中国/カラー/中国語/119分/シネスコ/5.1ch/G>
字幕翻訳:牧野琴子
2019年1月5日(土)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
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(本ページの情報は2018年12月時点のものです。最新の配信状況は U-NEXT サイトにてご確認ください。)