東京・ミニシアター生活

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【11/27公開】『ヒトラーに盗られたうさぎ』ナチス・ドイツからの亡命、いくつもの国を渡ったユダヤ人一家の物語

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1933年に、ヒトラー政権から逃れるため、家族4人でドイツを離れ、スイス、フランスを経てイギリスに亡命するという幼少期を体験した、ドイツ生まれの児童書作家ジュディス・カーの自伝を映画化。出会いや別れを繰り返しながら、未知の文化や言語の変化に戸惑い、空腹と貧困にも悩まされる過酷な生活へ。そんなのなかでも希望を忘れない少女アンナとその一家の、波乱に満ちた日々を描く。

2020年11月27日(金)よりシネスイッチ銀座にて全国順次ロードショー

 亡命する一家の生活を少女の目線で

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1933年、ベルリン。仮装パーティーでは物乞いの仮装をし、事故や災害の絵を描くのが好きだという少しシュールで独創的な9歳のアンナ。先生はもっと楽しい絵を描けというけれど「好きな絵を描けばいい」と言ってくれる父は、歯に衣着せぬ評論で知られる執筆家だ。

音楽を愛するママ、仲良しの兄マックス、大好きなメイドのハインピーと愛に溢れた生活を過ごしていたアンナだが、ユダヤ人である一家には少しずつヒトラーの暗い影が迫ってくる。

ヒトラーが選挙に勝利すれば、ドイツでは反ナチス弾圧が始まってしまう。その前に、と、まず父が立ち、続いてアンナとマックスと母はスイスに呼び寄せられることに。「持ち物は一つだけ」と母に告げられたアンナは、迷った末に大好きな“ピンクのうさぎのぬいぐるみ”を置いていく。いつか再会できると信じながら大好きなハインピーとも離れ離れに。友だちに別れも告げられず、一家はそっと旅立っていく。まだ無邪気なアンナとマックスは大切な全てとの別れを嘆くばかり…。

弾圧され、苦しみ、悲しい運命をたどるユダヤ人の姿を描くホロコースト作品が多い中、本作は、亡命という手段をとったユダヤ人がたどる道のりが描かれる。これは児童書作家ジュディス・カーの幼少期の体験談なのだ。

政治的な恐怖から逃れ、新たな生活へ

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一家は車で駅に向かい、その先は列車で国境を越えてスイスへ入る。3人は社会から見張られているような視線に危険を感じながら、つど、ママの機転で切り抜ける。ここまでは、ホロコーストものならではの緊迫感を感じるところだろう。

スイスに到着し4人の家族が揃ったのもつかの間、アンナは高熱を出し、大好きなハインピーや象の幻を見ながらうなされ続ける。ようやく目が覚めたときには、ドイツでのヒトラー勝利の情報が入り、幼いアンナも「もうベルリンには戻れない」という事実をさとることになる。

スイスでのアンナたちの新たな生活はなかなか苦しい。訛りで言葉が伝わりにくいし、文化の違いか、活発なアンナはことあるごとにクラスメートから行動をたしなめられる。さらにドイツから叔父が訪ねてくるも「家財道具は没収され、父の著書は焚書の対象になった」と暗いニュースばかりが聞こえてくる。

そんな経験の中でアンナから天真爛漫さが少しずつ失われていく。しかしその一方で、表情に聡明さがのぞき始める。こうした変化が希望の光のように感じられ、アンナ役のリーヴァ・クリマロフスキの、可愛いだけではない、見事な表現力が発揮される。


再び移住……一家は貧しい生活へ

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ようやくスイスでの生活に慣れ始めたアンナたちだったが、スイスでは父の仕事が見つからない。そこで一家は再び移住することに。新たな生活に愛着を持ち始めていたあらゆるものに別れを告げるアンナ。今度はスイスを離れパリへ向かう。今度はフランス語をを覚えるところから始めなくてならない。

しかも父に十分な仕事はなく、一家は経済的に困窮し、両親からは余裕がなくなっていく。どんなに過酷な環境になっても、支え合い、ときにはいがみ合いながら成長し続けるアンナとマックス兄妹は、生活の中に小さな喜びを探したり、新たな環境でも友人を見つけたりしながらタフに生き抜いていく。この状況下で発揮される2人の子どものポテンシャルは宝物のように輝いて見える。そして、そんな2人に照らされるように、大人たちもユーモアを取り戻し、エネルギーを得る。

このように、本作はホロコーストものというより、ヨーロッパを転々とする「移民」の物語だ。幼いアンナをはじめ、兄、母、父がそれぞれの立場で過酷な環境のなか奮闘し、葛藤しながらも「自分自身であり続けよう」とする。そんな大人たち、子どもたちの姿に自分自身を重ねることができれば、思わぬ勇気を得られるだろう。

オススメしたい『ヒトラーに盗られたうさぎ』

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  • ナチス政権を逃れ、亡命することで生き延びたユダヤ人の自叙伝を映画化
  • 過酷な環境を乗り切ろうとする個性豊かな4人家族の魅力
  • 亡命という道を選んだ人々のたどる道を知ることができる
  • 聡明かつキュートな子役リーヴァ・クリマロフスキの見事な演技

『ヒトラーに盗られたうさぎ』作品情報

【あらすじ】
1933年2月。ベルリンに住む9歳のアンナとのマックスの兄妹。ユダヤ人で新聞やラジオでヒトラーへの痛烈な批判を展開していた辛口演劇批評家であるアンナの父は、選挙でヒトラーの勝利が現実味を帯びてくるにつれ密かに亡命の準備を始めていた。住み慣れた家を離れる際「持ち物は一つだけ」と母に告げられたアンナは、大好きな“ピンクのうさぎのぬいぐるみ”、そしてお手伝いさんのハインピー、食卓、書斎、ピアノ、台所…一つ一つに別れを告げる。それは、それまで何不自由なく暮らしていた彼女の平和な家族の風景が一変し、この日を境に過酷な逃亡生活へと足を踏み入れていく始まりでもあった…。

監督:カロリーヌ・リンク(『名もなきアフリカの地で』)
脚本:カロリーヌ・リンク、アナ・ブリュッゲマン

出演:リーヴァ・クリマロフスキ、オリヴァー・マスッチ、カーラ・ジュリ、マリヌス・ホーマン、ウルスラ・ヴェルナー、ユストゥス・フォン・ドホナーニ ほか
原題:When Hitler Stole Pink Rabbit
配給:彩プロ
<2019年/ドイツ/ドイツ語/カラー/スコープサイズ/5.1chステレオ/119分>
2020年11月27日(金)よりシネスイッチ銀座にて全国順次ロードショー

pinkrabbit.ayapro.ne.jp

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©2019, Sommerhaus Filmproduktion GmbH, La Siala Entertainment GmbH, NextFilm Filmproduktion GmbH & Co. KG, Warner Bros. Entertainment GmbH

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