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【12/18公開】『この世界に残されて』“残された者”同士が出会い、魂を通わせる、かけがえのない日々

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約56万人ものユダヤ人が殺害されたと言われるハンガリー発の、新たなホロコースト作品。1948年、4人家族のうち、たった1人ホロコーストを生き延びた16歳のクララ。とげとげしく振る舞う問題児の彼女が、寂しさをたたえた父親のような医師・アルドと出会い、少しずつ心の鎧を外していく。しかしスターリン率いるソ連がハンガリーを掌握するにつれ、世の中は再び不穏な空気に包まれて……。

“残された者”の、悲しみに満ちたやるせない日々から、ゆっくり立ち直っていく2人が、観る者の孤独まで癒すようなヒューマンドラマ。

2020年12月18日(金)よりシネスイッチ銀座、ほか全国順次公開

深い孤独に苛まれた2人、16歳のクララと中年の医師アルド

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収容所を経験しながらもホロコーストを生き延びた、16歳の少女クララ。初めに登場した彼女は、孤独に打ちのめされ、怒りを原動力に生きているように振舞っている。誰に対しても尖った口調で攻撃的だ。

反抗心をむき出しにし、友だちも作らなければ、大人にも心を開かない。初対面のアルドに、母について過去形で尋ねられると「父と母は生きている」と告げ、睨みつける。しかしクララは2人がすでに存命していないことは本当のところ理解はしているようだ。妹については「私が看取った」と、その死を認めている。

自ら孤独を深めていくかのように毎日を生きているクララだったが、たまたま診察で訪れた医師アルドに、自分と同じ深い悲しみを読み取る。この出会いが2人の運命を変えていくことになる。

 出会ったばかりの2人の抱擁

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序盤で驚くのは、クララの距離の縮め方だ。出会ってから日を置かず、クララは仕事終わりのアルドを待ち伏せ、部屋に上がり込むと、いきなりしがみついてハグを求めるのだ。この突然の行動にギョッとする観客もいるかもしれない。「あんなに徹底して反抗的だったのに、急に?」

この唐突な行動は、愛情に飢えた16歳よりももっと幼い子どもに見られるものだろう。ところがまた、アルドもためらうことなく出会ったばかりの少女クララを抱き返すのだ。大人の男性としては、16歳にもなった女の子に対し、ちょっと不用意ではなかろうか? あるいは男の欲望か? と勘ぐってしまうかもしれない。

しかし、他者から見ると若干異様に映るこの抱擁が、実は2人の孤独の深さの現れでもある。作品を最後まで観てから振り返ると、驚いた人も腑に落ちるかもしれない。2人の孤独はそれほどまでに深いのだ。

壊れた魂。残された者の「罪悪感」

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残された者特有の感情の1つに「罪悪感」がある。如何なる時も、心と体に染み付いて離れない「罪悪感」は、様々な形で現れ、自分自身を縛るだろう。
 ー笑ってはいけないのではないか?
 ー欲望を抱いてはいけないのではないか?
 ー孤独でなくてはいけないのではないか?
そして「生きていていいのだろうか」と「生きなくてはいけない」という矛盾に引き裂かれるのではないだろうか。

年齢を重ねたアルドはひたすら孤独でいることを望み、そのように生きる。しかし、若いクララは、痛みと苦しみにのたうち回っている。そんな苦しみや痛みが自分のこととして理解できるのは、クララ周りにはアルドしかいないのだろう。

2人は年齢を超えた同志のようなものだ。他人からは奇異に映るであろう2人の関係は、おそらく当人たちも完全に理解はできていないのかもしれない。2人で長く過ごすにつれ、その揺らぎは随所に現れるようになっていく。

美しいハンガリーの若手女優アビゲール・セーケは、16歳から始まり、大人の女性となるまでのクララを見事に演じている。大人になるにつれて変化していく内面が反映されたような顔つきに変化していくのに驚かされるだろう。

作品ニュース

こうの史代さんら、絶賛のコメント

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『この世界に残されて』みどころ

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  • 「残された者」の心情を丁寧に綴った作品
  • クララ、アルドを繊細に演じる2人の魅力
  • 観客の孤独まで癒す、魂の再生の物語
  • ハンガリーの歴史的背景とクラシカルで美しい映像

『この世界に残されて』作品情報

【あらすじ】
終戦後の1948年、ホロコーストを生き延びたが、家族を失った16歳のクララは、保護者となった大叔母にも心を開かず、同級生にも馴染めずにいた。そんなある日、寡黙な医師アルドに出会い、彼の心に同じ孤独を感じ取ったクララは、父を慕うようにアルドに懐く。癒えることのない心の傷を抱えた2人は、年齢差を超え、痛みを分かち合いながら寄り添う。

だが、スターリン率いるソ連がハンガリーで権力を掌握すると、再び世の中は不穏な空気に包まれて……。

監督:バルナバーシュ・トート
出演:カーロイ・ハイデュク、アビゲール・セーケ、マリ・ナジ、カタリン・シムコー、バルナバーシュ・ホルカイ ほか
英題:Those Who Remained 原題:Akik maradtak
配給:シンカ
<2019/ハンガリー/ハンガリー語/88分/シネマスコープ/5.1ch/カラー>
日本語字幕:柏野文映
2020年12月18日(金)よりシネスイッチ銀座、ほか全国順次公開

synca.jp

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