近年アメリカでは、家を持たずキャンピングカーで暮らし、移動しながら季節労働に従事する高齢者が増えているという。彼らを「現代のノマド(遊牧民)」と表現したノンフィクション書籍『ノマド:漂流する高齢労働者たち』を映像化したのが本作。状況は過酷に聞こえるが、意外にも希望に満ちたロードムービーになっている。
主演はオスカー女優のフランシス・マクドーマンド(『ファーゴ』『スリー・ビルボード』)。また“本人役”として、実際の高齢労働者が重要な役どころで出演するなど、規格外の試みが行われている。この作品で監督のクロエ・ジャオは「第78回 ゴールデングローブ賞(2021年)」で最優秀作品賞(ドラマ)・最優秀監督賞を受賞。「第77回ベネチア国際映画祭(2020年)」で金獅子賞鵜を受賞している。今年、見逃すことのできない話題作だ。
2021年3月26日(金) 全国公開
流浪しながら働く毎日は、想定外の喜びに溢れていた!
“高齢者”の生活を思うと、今までの私たちは「老後は楽に暮らしたい」「年をとったら暇つぶしするような毎日だろう」「退屈こそ幸せ」などというイメージが頭をよぎりがちだった。
もし高齢になって家を失い「年金や貯金だけでは暮らしていけない」という理由で、住み慣れた町を離れて働き、仕事を求めて車で移動する生活をすることになったら……。そう聞くと「つらそう」「切ない」といった負のイメージを抱く人が多いのではないだろうか。しかし、この作品では、車で暮らしながら働く高齢者の生活を、暗いものではなく「希望に満ちたもの」として描いている。
高齢になって働けば、肉体的にも厳しいし、好きな仕事を選べるほど、求人が潤沢にあるわけではない。だが「働く」ということは、ある人々にとっては生きる上での基本なのだ。誰もが隠居生活に喜びを感じるわけではない。「自分の食い扶持を自分で稼ぐ」という状況は、1人の人間として、誇りをもって人生を続けられるということでもある。
壮大な自然、広大な土地に住む生活
アメリカの壮大な自然の中で、日が昇り、沈む様を味わうとなれば「毎日がキャンプ」のような生活でもある。車での生活は便利ではないだろうし、小さなアクシデントが頻繁に起こるかもしれない。しかしそれも“冒険”として楽しめれば素晴らしい。
そして一人暮らしといっても、助け合う友人もできる。ただ、それは今までの友人とは違って、一定期間の季節労働で出会っては「まだどこかでね」と声を掛けながら別れるような……今までとは違った距離感の友人なのだ。少し寂しいようではあるが、しがらみはない。まさに「解き放たれた自由な生活」と言えるのではないだろうか。
冒頭では涙を浮かべ、町に別れを告げていた主人公ファーンは、やがてノマドの生活を愛するようになっていく。
そんな彼女が、再び定住するチャンスや、パートナーを得るチャンスを提示されたら……果たして彼女は、誰とする、どんな暮らしを選択をするのだろうか。
「本人」役のノマドたちが多数登場、自由と多様性に溢れた作品
本作では、少ない人数でチームを組んで、ノマドコミュニティにそっと溶け込むようにして撮影を行ったそうだ。
本人役として重要な役どころを演じたノマドたちは、リンダ・メイ、スワンキー、そしてノマドコミューンのリーダーであるボブ・ウェルズ。プロの俳優の中にいても、埋もれることも、悪目立ちすることもない。俳優業を引き受けたというより、自らの人生をそのまま再現しているのだ。彼らに一般人とは思えない個性や貫禄があるのは、自分の人生をたくましく生き続けている人ゆえだろう。圧倒的な存在感を見せている。
逆に、フランシス・マクドーマンドは、緻密にリアルに、ノマドのコミュニティに溶け込んでいる。華々しさとは程遠く、屋外でのシーンが多い、おそらくかなり過酷な撮影の毎日だったろう。しかし、そんな日々を心から楽しんだことが彼女の表情からうかがえる。大自然、人間同士の繋がり、生活の営みを味わっている喜びが、彼女の顔にはずっと浮かんでいるようだ。
フランシス・マクドーマンドは『スリービルボード』で第90回のアカデミー主演女優賞受賞した際、受賞スピーチの最後を「inclusion rider(インクルージョン・ライダー)」という言葉で締めくくった。映画業界に性別や人種の多様性を求めるこの発言は、ハリウッド映画界に一石を投じた、と話題になった。
様々な社会的な問題に興味を持って取り組むフランシス・マクドーマンドの姿勢があったからこそ、本作が深く心に響く作品になったのではないだろうか。
作品ニュース
アカデミー賞6部門にノミネート
本作は「第93回 アカデミー賞®」で、主要6キー部門にノミネートされた。
結果発表、および授賞式は、日本時間4月26日月曜日の午前8:30にスタートする。
🏅第93回 #アカデミー賞 ®
— サーチライト・ピクチャーズ (@SearchlightJPN) 2021年3月16日
作品賞 監督賞 主演女優賞ほか
主要6⃣部門ノミネート❕
"今を生きる希望"を映し出す...💡
奇跡の108分を映画館で ━
🎬3月26日(金)公開
『#ノマドランド』🚛💨
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄#サーチライトピクチャーズ#フランシスマクドーマンド #クロエジャオ pic.twitter.com/MDUVMiu1RV
オススメしたい『ノマドランド』みどころ
- 高齢者労働者のリアルな生活を知る
- いつまでも“冒険”する人生の素晴らしさ
- 壮大なアメリカの大自然を味わえる
- ノマドたちの豊かな個性
『ノマドランド』作品情報
【あらすじ】
企業の破たんと共に、長年住み慣れたネバタ州の住居も失った60代の女性ファーン(フランシス・マクドーマンド)は、キャンピングカーに亡き夫との思い出を詰め込んで、〈現代のノマド=遊牧民〉として、季節労働の現場を渡り歩く生活へと出発する。
懸命にその日その日を乗り越えながら、リーマンショックで全てを失ったリンダ・メイ(本人)やガンを患ったスワンキー(本人)ら、往く先々で出会うノマドたちと心を通わせる。
ある日、キャンピングカーの修理代に困り、お金を借りるため姉のドリー(メリッサ・モリナーロ)を尋ねると「ここに住んで」と持ちかけられて……。
監督・脚本:クロエ・ジャオ(『ザ・ライダー』『エターナルズ』)
出演:フランシス・マクドーマンド、デヴィッド・ストラザーン、リンダ・メイ、ボブ・ウェルズ ほか
原題:Nomadland
原作:「ノマド:漂流する高齢労働者たち」(ジェシカ・ブルーダー著/春秋社刊)
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
<2020年/108分/G/アメリカ>
2021年3月26日(金) 全国公開
©2021 20th Century Studios. All rights reserved.
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