天才ヴァイオリニストの青年が、華々しい世界デビューを飾る日に、忽然と姿を消してしまう。それから35年後、兄弟同然に育った主人公がその行方の糸口を見つけ、イギリスからワルシャワ、ニューヨークへと彼を探す旅に出る。ホロコーストを新たな切り口で見せる、音楽ミステリー。
ティム・ロスの真摯な演技とインパクトあるヴァイオリンの音色(演奏:レイ・チェン)が印象的。原作小説をブラッシュアップするアイディアを加え、繊細なミステリー作品に仕上がった。
2021年12月 3日(金)、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
少年時代の嫉妬と友情
21歳のヴァイオリニスト、ドヴィドルが行方不明になる事件、その青年期のオープニングから、物語は過去の少年期へ。
ある日突然、父の采配で天才ヴァイオリニストである同世代の少年を、自分の部屋に迎え入れることになる、9歳の少年マーティン。多感な年頃のマーティンは、尊大な態度の天才少年に嫉妬と反発を覚えるが、やがて2人は実の兄弟のように互いを必要とする存在になっていく。
第二次世界大戦下、故郷を離れ、家族を思うポーランド系ユダヤ人のドヴィルと、彼の不安を思いやるマーティン。そして音楽を介する特別な思い。少年時代だけでも1本の作品が作れそうな、豊かな少年たちの関係が描かれる。
ちなみに、ドヴィルの少年期を演じるルーク・ドイルは俳優経験はなく、ヴァイオリニストとして名を馳せている少年。子どもらしからぬ弓さばきは本物の技術なのだろう。一方、マーティンを演じる少年ミシャ・ハンドリーは、嫉妬をこじらせた表情から思いやりを見せるまでの変化を、見事な説得力で演じている。
青年期から悲しみを抱えた中年期(ティム・ロス)へ
気まぐれな天才気質のドヴィル、おおらかながら実直なマーティン。性格はまるで違えど、青年期の2人は悪友のような兄弟になり「家族」としてお互いを信頼し合っていた。そんななかで、突如失踪してしまうドヴィル。
青年期のマーティンを演じるジェラン・ハウエルは、顔立ちも似ているところがあるのだろうが、いかにも中年になったらティム・ロスになりそうな雰囲気や表情を醸し出す。一方、ドヴィルを演じるジョナ・ハウアー=キングは華があり、天才ならではの軽薄そうな振る舞いも、見事にハマっている。
それから謎を残し、生死すら分からぬまま戻らなくなってしまうドヴィル。この一件にショックを受けたマーティンの父もほどなくして亡くなってしまう。やがてマーティンは35年経って、くたびれた中年男になる。この中年期を演じるのが、名優ティム・ロス。実直に生きた男らしく、愛する妻もいて仕事にも困っていない。しかし、ひょうひょうとしたユーモアを見せながらも哀愁が漂っており、その喪失感の深さを感じさせる。
音楽、ホロコースト、そしてミステリー
抜きん出た才能はなくとも音楽に関わり続けることになる父と息子、そんな彼らの前に現れた天才少年のヴァイオリニスト。本作は、始まりから終わりまで美しい音楽に携わる人々の物語だ。そして時代は第二次世界大戦前〜その後。ポーランド系ユダヤ人のドヴィル少年は、家族を残しホロコーストから単身逃れた形になる。そしてドヴィルは世界デビューという大切な日に21歳で失踪、35年も経ってからドヴィルの存在を感じさせる糸口が見つかり、主人公マーティンが捜索の旅へ。このように、音楽、ホロコースト、ミステリーという3つの要素が見事に絡み合ったストーリーだ。
本作は、ホロコーストで80万人が命を失ったというトレブリンカ跡地でも撮影が行われた。この地で初となる撮影許可が下りたのだという。"Never Again“(二度と繰り返さない)という単語が様々な言語で刻まれている慰霊碑も本物だろう。
「語り尽くされたホロコースト」と言われるくらい、ホロコーストにまつわる作品は数多く作られてきた。しかしその事実が忘れ去られてはならない。だからこそ、このような新たな切り口をもって語り続けられることは、とても大切なことである。
作品ニュース
「ユダヤの音楽と文化」講座
映画関連講座として「ユダヤの音楽と文化」を読み解くというテーマで講座が開催される。音楽面の歴史や文化を深掘りしたい方はぜひ。
『#天才ヴァイオリニストと消えた旋律』
— キノフィルムズ (@kinofilmsJP) 2021年11月18日
朝日カルチャーセンターにて、深堀講座の開催が決定!樋口隆一さん(明治学院大学名誉教授)に解説いただきます。是非ご参加ください🎻
12月11日(土)13:00~
「映画『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』・その時代背景とユダヤ音楽」https://t.co/RS5QnO1pUm
オススメしたい『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』
- 変化する2人の少年の関係性
- 聴きどころいっぱいのヴァイオリン演奏
- ホロコースト作品としての新たな切り口
- 心理的な謎が明かされるミステリー
『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』作品情報
【あらすじ】
第二次世界大戦前夜のヨーロッパ。ロンドンに住む9歳のマーティンの家に、ポーランド系ユダヤ人で、類まれなヴァイオリンの才能を持つ少年ドヴィドル・ラパポートがやってきた。真面目なマーティンと生意気なドヴィドルは相反する性格と宗教観の違いに戸惑いながら、やがて兄弟のように仲睦まじく成長する。
しかし、21歳を迎えて開催された華々しいデビューコンサートの当日、ドヴィドルは行方不明になる。音信不通のまま35年の月日が経ったある日、音楽コンクールの審査員をしていたマーティンは、ドヴィドルの行方を追う手掛かりに出会い、彼を探す旅に出る。ドヴィドルはなぜ失踪し、何処に行ったのか? そして、マーティンの旅路の先には思いがけない真実が待っていた……。
監督:フランソワ・ジラール
出演:ティム・ロス、クライヴ・オーウェン、ルーク・ドイル、ミシャ・ハンドリー、キャサリン・マコーマック ほか
脚本:ジェフリー・ケイン
原題:The song of names
配給:キノフィルムズ
<2019 年/イギリス・カナダ・ハンガリー・ドイツ/英語・ポーランド語・ヘブライ語・イタリア語/113 分/映倫区分:G>
製作総指揮:ロバート・ラントス
音楽:ハワード・ショア
ヴァイオリン演奏:レイ・チェン
提供:木下グループ
2021年12月 3日(金)、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
© 2019 SPF (Songs) Productions Inc., LF (Songs) Productions Inc., and Proton Cinema Kft
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