『初恋のきた道』(1999年)の巨匠チャン・イーモウが長年、映画化を熱望していた企画がついに完成。文化革命真っ只中の中国を舞台に、ノスタルジックで映画愛に満ちた物語が展開する。娯楽の少ない時代に映画に熱狂する群衆の迫力と、広大な砂漠の映像美は圧倒的だ。主演は、人気俳優チャン・イーと、本作でデビューを飾る注目の新人、リウ・ハオツン。
2022年5月20日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
娘と引き離された逃亡者vs親のいない孤児
チャン・イー演じる逃亡者の男は、文化大革命のなか造反派に歯向い、強制労働所送りになってしまっている。そして、妻と離婚したことで離れ離れになった娘が、ニュースフィルムにわずか1秒映っていると聞き、その1秒見たさで脱走し、フィルムを追う。一方、リウ・ハオツン演じる孤児は、ある理由で必要なため、映画のフィルムを盗んでしまう。こうして「映画フィルム」を挟んで対立する2人の構図が出来上がる。
そして2人は「娘との縁をなくした男」と「親のいない子」なのだが……マッチングするようでいて、この2人、スンナリ打ち解けることはない。逃亡者はあくまで“自分の娘”の姿を追い、それを邪魔する子どもは“クソガキ”扱い。一方の孤児は、大人に頼ることを知らず、弟という守るべき存在があって自ら戦おうとする。この主人公2人の潔い関係と距離感が、本作をノスタルジックでも甘ったるくない作風へと高めているのだろう。
時代を超えた映画愛
本作は「映画についての映画」というべき作品だ。
時代は文化大革命(1966〜1976年)真っ只中、映画の上映は数少ない娯楽のうちの1つだったという。劇中に多くの村民が観たがる『英雄児女』という映画作品が登場するが、この『英雄児女』自体に、チャン・イーモウ監督の原風景ともいうべき想いが詰まっているのだろう。
また、ある事故により、映画のフィルムが泥だらけになってあわや、おじゃんになってしまうのか……という展開があるのだが、そのとき村中の人が「映画見たさ」で、ファン・ウェイ演じる映画技師の指示のもと、フィルムをリカバリーしたりスクリーンの準備をしたりする熱を帯びた表情や姿には、心を動かされるだろう。映画を愛する群衆も、本作の重要なキャストなのである。
中国で厳しくなったという検閲…ピンチはチャンスに変わったか
現在、中国では映画の検閲が厳しくなって、本作にも検閲当局の指示が加えられたらしい。文化大革命によって、人々の生きる道が悲劇性を帯びたというメッセージはよくないという判断があったらしく、本作もいくつかのシーンが追加されたのだという。
それゆえにおそらくメッセージ性はボヤけ、劇的な感動に一枚皮膜がかかったような、不思議な後味の作品に仕上がっている。
どうやらリウ・ハオツンのその後の姿を見ることができるエピローグも、追加されたシーンらしい。さすが、巨匠チャン・イーモウ、映画愛は「ピンチをチャンスに」変貌させることも可能だと教えてくれる。
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オススメしたい『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』
- 激動の文化大革命時代の中国が舞台
- 新人リウ・ハオツンとベテラン、チャン・イーの魅力
- 映画愛に満ちた群衆たちとストーリー
- 砂漠の風景や、上映中の映画館など風景の力。
『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』作品情報
【あらすじ】
文化大革命まっただなかの1969年、中国。造反派に歯向い、強制労働所送りになった男(チャン・イー)は、妻と離婚し、最愛の娘とも疎遠になってしまう。
数年後、22号というニュース映画に娘の姿が1秒間映っているという話を聞いた男は、娘を一目見たいがために危険を冒して強制労働所を脱出。逃亡者となりながらも砂漠の中を映画が上映される予定の村を目指して進んでいく。しかし、逃亡者は村へ向かう途中、大事なフィルムを盗み逃げ出す孤児のリウ(リウ・ハオツン)の姿を目撃する。
村までたどり着いた逃亡者は、すぐにリウを見つけ出し締め上げ、盗んだフィルムを映写技師のファン(ファン・ウェイ)に返すのだった。だがそんな時、村では大騒動が勃発。フィルム運搬係の不手際で膨大な量のフィルムがむき出しで地面にばらまかれ、ドロドロに汚れたフィルムは上映不可能な状態、しかもその中には逃亡者が血眼で探していた、22号のニュース映画の缶があった……。
監督・脚本:チャン・イーモウ(『初恋のきた道』『妻への家路』)
出演:チャン・イー (『オペレーション:レッド・シー』)、リウ・ハオツン、ファン・ウェイ(『愛しの故郷』)ほか
原題:一秒钟
配給:ツイン
<2020年/中国/中国語/103分/シネスコ>
字幕翻訳:神部明世
2022年5月20日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
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