奴隷たちが遠洋で漁猟をさせられている…「いつの時代の話?」などと思うなかれ。今夜、私たちの食卓に並んだ魚は、不当に奴隷にされた人たちが捕ったものかもしれないのだ。
世界最大の規模を誇るタイのシーフード産業では、違法かつ強引な方法を用いて労働力を確保してきた。この事実を知った「労働権利推進ネットワーク」パティマ氏らは何百人もの奴隷労働者のレスキューを展開。本作はその活動を追い、被害者の証言を集めたドキュメンタリーである。劇映画ばりのスリリングな緊張感、そして広大な海の映像美も見どころだ。
2022年5月28(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
騙され、不当に拉致されて…あまりに多い奴隷労働者の存在
「夜の街で遊んでいて、目覚めたら…」「仕事を探していて、ようやく働き口が見つかったと喜んでいたら…」救い出された奴隷労働者たちは、そんな証言する。彼らが語る奴隷となった入り口はとても身近な話に聞こえる。我が身に起こってもおかしくないようようなあまりに些細なきっかけに思わずゾッとしてしまう。
「労働権利推進ネットワーク」で働く女性・パティマ氏らは、奴隷労働者たちを救い出す活動を行っている。しかし、奴隷労働者の存在を把握するだけでは、彼らを救い出すことは難しい。パティマ氏たちは綿密な計画のもと、彼らの救出を行っているのだ。
事故・虐待による死や身体欠損も…苛烈な奴隷労働の残すもの
救い出されとしても、奴隷労働者たちには数々の問題が残る。全く無給で過酷な労働を2年3年、7年8年…あるいは十何年も課せられて、そんなにも長い時を失ったにも関わらず無一文の彼らは、救出されても「故郷に帰る」という選択をすんなり出来ない人が多い。運良く船から逃れたものの故郷へ帰るすべがなく、とどまった地で家族ができて、今さら以前の暮らしに戻れないという人もいる。
また危険で過酷な労働での事故や、支配者からの虐待で身体が欠損してしまった人もいる。命を落とし、海に棄てられた仲間について証言する人もいる。睡眠時間を削り薬物で目覚めさせ、過酷な労働を強いられた彼らの心身はトコトン傷ついている。苛烈な経験を重ね、彼らの顔に刻まれた苦悶の表情に、作品を観ていて苦しさを覚えるだろう。
しかし、日本はタイから多くのシーフードを輸入しているのも事実。彼らが捕った魚は、今日も日本の食卓に並べられているのである。
命をかけたパティマ氏らのレスキュー航海
支配者によって理不尽で残酷な所業が行われているにも関わらず、映し出される青い海はとても美しい。うねる波は大自然そのものだ。本作の映像美と事件のコントラストによって、ことの悲惨さは心にくさびを打ち込まれるように響いてくる。
漁業会社は、時には殺し屋や警察を使ってパティマ氏らを脅し、追い払おうとする。最大限の注意は払いつつ、彼女たちは強い心をもってレスキューの航海に出る……。
何も知らず何も感じず、輸入されたシーフードを口にしてきた私たちは、今、何を感じ、何をすべきなのだろうか。
作品ニュース
本作の内容を掘り下げる書籍
本作公式アカウントで、この問題を扱った書籍を紹介している。
映画『ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇』と一緒に読みたい本『アウトロー・オーシャン 海の「無法地帯」をゆく』(イアン・アービナ 著 黒木 章人 訳)。
— 映画『ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇』 (@ghostfjp) 2022年5月25日
下巻にタイの水産業界の強制労働の実態が書かれています。
「「海の奴隷」に頼らなければタイの遠洋漁業は立ち行かない」 pic.twitter.com/IpUbAt52qG
齋藤百合子教授による解説が公開中
「海の奴隷」の経験者から直に話を聞いたことがあるという、大東文化大学の齋藤百合子教授による解説が公開中。
【解説】インドネシア沖で漁船での労働を強いられた経験を持つ人たちにLPNでインタビューしたことがある。一日3、4時間の睡眠、仲間内の喧嘩、将来を悲観して自殺を図る者、助ける者、船内での暴力や喧嘩、殺人、それぞれ壮絶な経験を...https://t.co/XWdwwy2eau
— 映画『ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇』 (@ghostfjp) 2022年5月24日
齋藤百合子
大東文化大学 特任教授 pic.twitter.com/HeAIMEkTaQ
オススメしたい『ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇』
- 日本も関わるタイシーフード業界の闇
- 奴隷となった当事者の衝撃的な証言
- 危険な奴隷救出活動を行う人々の覚悟
- 救出では解決しない複雑な状況を知る
『ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇』作品情報
【作品概要】
タイの⽔産物輸⼊で世界第2位の⽇本は、ツナ⽸、エビ、養殖⽤の⿂粉、キャットフードなどをタイから輸⼊している。安価な⽔産物の裏で犠牲になっているのが「海の奴隷」の存在だ。世界有数の⽔産⼤国であるタイには、⼈⾝売買業者に騙され漁船で奴隷労働者として働かされている「海の奴隷」が数万⼈存在するといわれている。
タイの漁業会社は何千キロにも及ぶ遠洋漁業に乗船させる船員確保のため、タイやミャンマー、ラオス、カンボジアなど貧困国から集めた男性たちを、たった数百ドルで漁業会社に売り⾶ばす⼈⾝売買業者から奴隷労働者を得る。「いい仕事がある」と誘惑され拉致された⼈々は、数ヶ⽉や酷いと何年も下船することなく「海の奴隷」として働かされる。
「労働権利推進ネットワーク」のパティマ・タンプチャヤクル(2017 年ノーベル平和賞ノミネート)や⾃⾝も11 年間奴隷労働した経験のあるトゥン・リンたちは、数々の困難に直⾯しながら、漁業会社の漁船からインドネシアの離島に逃げた男性たちを救出するために命がけの航海へと漕ぎ出していく…。
監督:シャノン・サービス、ジェフリー・ウォルドロン
出演:パティマ・タンプチャヤクル、トゥン・リン、チュティマ・シダサシアン(オイ)ほか
プロデューサー:ジョン・バウアマスター、シャノン・サービス
制作総指揮:ポール・アレン、キャロル・トムコ他
撮影:ジェフリー・ウォルドロン、ベイジル・チルダース、アレハンドロ・ウィルキンズ、ルーカス・ガス
編集:パーカー・ララミー、エリーザ・ボノラ 音楽:マーク・デッリ・アントニ
制作:バルカンプロダクションズ、シーホースプロダクションズ
配給:ユナイテッドピープル 特別協力:WWFジャパン
<2018年/アメリカ/90分/カラー/16:9>
2022年5月28(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
(場面スチール)©Vulcan Productions, Inc. and Seahorse Productions, LLC.
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