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【7/15公開】『戦争と女の顔』戦争が終わってもPTSDに苦しむ若き女性たち 今、ロシア人が描く戦後の物語

第二次世界大戦の終戦から77年。本作は、若い世代のスタッフ・キャストらが戦争の恐ろしさを伝えるロシア映画だ。30歳を過ぎたばかりの新鋭カンテミール・バラーゴフ監督が、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ(ノーベル文学賞を受賞)のデビュー作『戦争は女の顔をしていない』に衝撃を受け、戦後の女性の運命をテーマに本作を完成。新進の若手女優2人が主演をつとめ、戦争のPTSDに苦しむ女たちの、複雑な状況と心理状態を見事に演じきった。
世界の映画祭を席巻し、カンヌ国際映画祭ほか30を超える映画賞を受賞した、さまざまな問題を孕む人間ドラマ。

2022年7月15日(金)新宿武蔵野館ヒューマントラストシネマ渋谷ほか、全国順次ロードショー!

戦争の後遺症について描かれたロシア映画

描かれる時代は第二次対戦後の1945年。脚本・監督のカンテミール・バラーゴフをはじめ、スタッフ&キャストは戦争を体験していない世代だ。過去の資料をリサーチして荒廃した街を再現し、創造的にイメージを膨らませ、傷を負った人々とそのねじれていく関係性を生々しく描き出している。

ちなみに作品に登場する骨董品のような路面電車は、作ったのではなく本物を借りて撮影したものとのこと、美術にも注目したい。車も博物館所蔵の1938年製メルセデスベンツを借用。また、当時は戦争が爪痕を残す荒涼とした光景にも関わらず、思いの外鮮やかな色も存在していたという。そんな事実に基づき、作品の中でところどころに美しい色彩を見ることができる。

現在世界に衝撃を与えている2022年ロシアによるウクライナ侵攻が始まる前から、本作の日本公開は決まっていた。この「戦後の苦しみを描くロシア映画」が今公開されるのは、本作の意味をより深く受け止めることができるタイミングでもある。

不吉さを予感させる、ネジを巻くようなイーヤのうめき声が冒頭から響き、観客はみるみるミステリアスな深い闇に引き込まれるだろう。

イーヤ、マーシャを演じる女優は本作で長編映画デビュー

のっぽではにかみ屋のイーヤと、勝気なマーシャ。主演女優2人は、役柄のイメージに驚くほどマッチしている。ルックスがぴったりであることを差し引いても、表現力の豊かさと強い個性で存在感がある。あまりに理想的なキャストである。

驚くべきは、2人は主演にして、本作が長編デビューであるということ。研究所などで演技について学んできたという2人。ロシアという国の高い芸術性をもってして、実力派俳優の層がここまで厚いということなのだろうか。2人が存分に実力を発揮できる場が準備されたことも素晴らしい……ロシアにも、早く真っ当な日々が取り戻されるよう切に願う。

LGBT、女性蔑視、安楽死…と現代に通じる問題も提示

カンテミール・バラーゴフ監督は、近年初めて知った「戦後の女性たち」の状況を本作に盛り込んだのだという。作品の中で、戦後の女たちの運命や、女性に課せられた役割について明らかにされている。

女性たちは、戦争で欠損し、耐えられない苦しみを抱えた夫や、負傷兵の患者を「どう受け止め、彼らに対し何をすべきなのか」を突きつけられる。

また、参戦という形の協力までした若い女性たちに、戦後の社会がどんな仕打ちをしてきたのか。ひどく過酷な状況で、女性たちはどのように生き延びたのか。主人公たちの行動によって、観客はそれを知ることになる。

イーヤとマーシャは、それぞれ発作を起こすほどのPTSDを抱えている。彼女たちをはじめ、戦争ですでに心身傷ついた女性たちを、戦後の状況はさらに傷つける。戦争が終わっても、女たちの闘いは終わらない。

病院が主な舞台となる前半では、傷ついた元兵士たちが集う中、一筋の希望として映るのは、幼い男の子パーシュカだ。病院で働きながら、この子を愛情深く育てているイーヤだったが、自分の発作が原因で不幸な事故を起こし、パーシュは亡くなってしまう。

そしてタイミング悪く、ちょうどパーシュカの実母である兵士マーシャが帰還する。もともと複雑であったイーヤとマーシャの関係は、パーシュカの死をもってますますいびつに形を変えていく……。

作品ニュース

B5サイズ・美しいカラーのパンフレット

公式ツイッターでパンフレットが動画で紹介されています。

オススメしたい『戦争と女の顔』

  • 2人の主人公を通し、戦後の社会で苦しむ女性の姿を知る
  • リアルで美しい美術。電車や車は当時のホンモノを使用
  • LGBT、女性蔑視、安楽死…と現代に通じる問題も
  • 個性豊かで実力を備えた新進女優が主演

『戦争と女の顔』作品情報

【あらすじ】
1945年、終戦直後のレニングラード。第二次世界大戦の独ソ戦により、街は荒廃し、建物は取り壊され、市民は心身ともにボロボロになっていた。史上最悪の包囲戦が終わったものの、残された残骸の中で生と死の戦いは続いていた。多くの傷病軍人が収容された病院で働く看護師のイーヤ(ヴィクトリア・ミロシニチェンコ)は、PTSDを抱えながら働き、パーシュカという子供を育てていた。しかし、後遺症の発作のせいでその子供を失ってしまう。

そこに子供の本当の母であり、戦友のマーシャ(ヴァシリサ・ペレリギナ)が戦地から帰還する。彼女もまた後遺症や戦傷を抱えながらも、二人の若き女性イーヤとマーシャは、廃墟の中で自分たちの生活を再建するための闘いに意味と希望を見い出すが......。

監督・脚本:カンテミール・バラーゴフ
出演:ヴィクトリア・ミロシニチェンコ、ヴァシリサ・ペレリギナ、アンドレイ・ヴァイコフ、イーゴリ・シローコフ ほか
共同脚本:アレクサンドル・チェレホフ
原案:『戦争は女の顔をしていない』スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ、 三浦みどり 訳(岩波現代文庫)
製作:アレクサンドル・ロドニャンスキー、セルゲイ・メルクモフ
音楽:エフゲニー・ガルペリン
撮影:クセニア・セレダ
原題:Dylda
英題:Beanpole

〈ロシア/ロシア語/2019年/137分/DCP/カラー/PG12〉

字幕翻訳:田沼令子
ロシア語監修:福田和代

2022年7月15日(金)新宿武蔵野館ヒューマントラストシネマ渋谷ほか、全国順次ロードショー!

 

 

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© Non-Stop Production, LLC, 2019

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(本ページの情報は2020年6月のものです。最新の配信状況は U-NEXT サイトにてご確認ください。)

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