世界的ブランドのデザイナーに次々と抜擢され、ファッション界の至宝と称えられた“革命児”ジョン・ガリアーノは、2011年に起こしたヘイトクライムで有罪となり、仕事のみならず全てを失った。事件から13年経ち、ガリアーノはカメラの前に座り「洗いざらい話す」と語る。
全盛期の華々しいアーカイブとともに、トップ俳優や一流モデル、ファッション業界の関係者、そしてガリアーノ本人の赤裸々なインタビューを収録したジェットコースターのような半生を綴る、衝撃のヒューマン・ドキュメンタリー。監督はアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞したケヴィン・マクドナルド。
2024年9月20日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町他ロードショー
ジョン・ガリアーノ全盛期の華々しいアーカイブ
ロンドンの美術学校セントマーチンズの卒業制作で注目を浴び、ロンドンにおいてファッション界の寵児となったジョン・ガリアーノ。作品の前半ではそのサクセスストーリーを追いかける。
作品が斬新すぎるあまりパリ進出に失敗するも、彼の才能を見込んだ業界人やトップモデルたちの協力によって、デザイナーとしてのガリアーノの価値は蘇る。一気に勢いに乗ると、世界的ブランドのデザイナーに次々と抜擢された。美術品のように繊細でエレガンス、そして官能的な遊び心を盛り込んだガリアーノのファッション。それを物語性のある演出を施し大胆に“ロックンロール化”されたステージに乗せ、大勢の観客を魅了した。
ファッション界の闇、果てしない要求の果てに起こった事件
しかし、栄光に酔いしれる日々の中で、次第に疲弊していくガリアーノ。一年間に32回という信じられない数のショーをこなしながら、高い売り上げ目標をクリアし、メディアの取材に応え、セレブとも付き合う。
毎日酒の助けを求める一方で筋トレに執着する。身も心もすり減らしながら、アルコール依存となり、調和が保てなくなっていくガリアーノ。追い討ちをかけるように親しい人の死といった悲しい出来事が立て続けに起こり、彼は崩壊する。
とても正気ではいられなくなった2011年のある夜、ガリアーノはたまたまカフェで隣り合ったカップルに何の根拠もない暴言を浴びせてしまう。
反ユダヤ主義者のヘイト発言。そして、その様子を収めた動画まで「ジョン・ガリアーノがヘイトクライムで有罪に」というニュースと共に流され、ナタリー・ポートマンの「ユダヤ系として極めて遺憾」というコメントと共に拡散されることとなった。
デザイナーだったブランドからは解雇され、世間の批判を浴び、友人は離れていき、ガリアーノはこの一夜の事件で全てを失ってしまったのだった。
ガリアーノ事件が双方に残したあまりにも深すぎる傷
事件から13年、アルコール依存から立ち直ったガリアーノが、カメラの前で記憶をたどり苦しい過去を振り返る。
彼を許す人も許さない人もいる。ガリアーノは自身が反ユダヤ主義者ではないことをはっきり明言しているし、今では彼を理解する友人や味方もいる。しかし、彼の暴言は社会問題であり、ユダヤ人関連の団体をはじめ、いまだに怒りを抱え続けている人もいる。
そして当事者である、彼に暴言を浴びせられた男性は(実のところユダヤ人ではないのだが)、事件の恐怖がトラウマになって、日常生活を取り戻せなくなってしまっているという。
現在もガリアーノと被害者の間では、「謝罪をしたか、しなかったか」という認識にさえズレがある。しかし、13年という時(とき)がなおさら彼らの関係を拗らせていて、改めて面と向かって謝罪の場を設けることは難しい。双方の心の傷は深く、とても対面できる状況でないことは、スクリーン越しに見ている私たちにも理解できる。
華々しいショーのアーカイブが展開する前半とはうって変わって後半は、ヘイト発言が生む深い傷や分断、そして事件のきっかけとなったアルコール依存の恐ろしさを訴える。まるで違う2つのドキュメンタリーを見ているようだが、これがガリアーノの一連の人生なのだ。
時代の寵児となった一人のデザイナーの栄枯盛衰にとどまらず、最終的に社会問題を扱うドキュメンタリーにもなっているのが、本作の大きな特徴であり、おすすめしたポイントだ。ヘイト発言がどれだけ人々や社会に大きな傷跡を残すのか、その一端を知ることができる。
作品ニュース
劇場で楽しめる「ジョン“ガリ”ベリージンジャー」
本作公開記念! ヒューマントラストシネマ有楽町でオリジナルドリンクを販売!
『#ジョン・ガリアーノ世界一愚かな天才デザイナー』公開記念🎥
— キノフィルムズ・アートハウス部 (@kino_arthouse) 2024年9月16日
ヒューマントラストシネマ有楽町オリジナルドリンク販売決定🥤
【商品名】ジョン“ガリ”ベリージンジャー ✨
【価格】450円(税込)
【発売日】9/20(金)劇場オープン時間~
⏬詳細⏬https://t.co/TQ8xSvXHTC pic.twitter.com/UyV7TaHF3r
オススメしたい『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
- 80年代からのガリアーノの豪華絢爛なステージアーカイブ
- 実はブラックだった…花形ファッション業界の闇
- “ガリアーノ事件”とその原因となった依存症の恐ろしさ
- 被害者だけでなく加害者ガリアーノにも残る深い傷
『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』作品情報
【あらすじ】
ジョン・ガリアーノは1995年ジバンシィ、1996年クリスチャン・ディオールと、世界的ブランドのデザイナーに次々と抜擢され、ファッション界の至宝と称えられた“ファッション界の革命児”。しかし、絶頂期だった2011年2月、反ユダヤ主義的暴言を吐く動画が拡散、その後有罪となり、関わるブランドから解雇され、文字通り“すべて”を失くした。
事件から13年たった今、ガリアーノ本人がカメラの前に座り、「洗いざらい話す」と語る。年32回のショーを抱え、超人的な仕事量をこなしながら、相次ぐ大切な人の死、さらにアルコール依存症が加速、「ゆっくりと死に向かっていた」と自ら暴露する、その闇とは…。
監督・プロデューサー:ケヴィン・マクドナルド (『モーリタニアン 黒塗りの記録』)
出演:ジョン・ガリアーノ、ケイト・モス、シドニー・トレダノ、ナオミ・キャンベル、ペネロペ・クルス、シャーリーズ・セロン、アナ・ウィンター、エドワード・エニンフル、ベルナール・アルノー ほか
原題:High & Low -John Galliano
配給:キノフィルムズ
<2023年/イギリス/英語・仏語/116分/カラー/ビスタ>
字幕翻訳:チオキ真理
2024年9月20日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町他ロードショー
© 2023 KGB Films JG Ltd
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