東京・ミニシアター生活

主に都内のミニシアターで上映される新作映画の紹介をしています。

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【6/28公開】『COLD WAR あの歌、2つの心』時代や国に引き裂かれようとも、幾度も求め合う男と女…音楽で時を紡ぐ珠玉のモノクロ作品!

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冷戦時代のポーランドをはじめ、さまざまな国をめぐり国境を超えて愛し合う、歌手とピアニスト。引き裂かれてもなお求め合う2人の行方の読めない物語が、珠玉の音楽とともに展開する。5年前『イーダ』でアカデミー賞外国語映画賞を受賞したパヴェウ・パヴリコフスキ監督が、自身の両親をモデルに脚本を書いて撮りあげた、情熱溢るるラブストーリー。

2019年6月28日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

民謡から始まり、ジャズ、ラテンへ…次々と繰り出される至上の音楽

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冒頭は民族音楽で始まる。民謡をモダンにアレンジする国立音楽舞踊団(実在の舞踊団「マゾフシェ」がモデル)設立のため、村を巡って音楽を集めていたピアニストのヴィクトルたち。彼らの舞踊団のオーディションにやってきたのが、不思議な魅力をもつ曰く付きの少女ズーラだった。

舞踊団に所属しながら恋を深めるヴィクトルとズーラ。しかし西側の音楽を愛するヴィクトルは、冷戦に揺れるポーランドを離れ、パリに亡命しジャズに没頭する。

やがて2人は再会と別離を繰り返す。そして舞台となる国を変え、音楽のジャンルをも変えながら、状況や心情を奏でる歌や楽曲が展開されていく。この作品において、音楽は、ズーラとヴィクトルに並ぶ主人公ともいえる存在だ。

ポーランド、東ドイツ、フランス…国を超えて求め続ける2人の情熱

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お互い強く惹かれ合いながら、愛だけに溺れることなく、音楽はもちろん自分の直感や欲求に率直に行動する、ヴィクトルとズーラ。ときには音楽を、ときには愛を選び取る2人の物語は、冷戦時代という環境のもとで、別離と復縁を、衝撃的かつドラマティックな形で繰り返すことになる。

あるときはという鉄のカーテンをくぐるという危険を犯しながら、時代に引き裂かれつつも、求め合う2人。出会った祖国ポーランドを離れた後も、東ドイツ、フランス、ユーゴスラビアと舞台は転々と変わる。それぞれ別のパートナーを得る時代もある。

2人の15年以上にわたる時代を取り上げた本作は、ていねいに描かれるパートもあれば、ときには思い切った短いシーンとして挿入されることもある。

退屈な説明を省くためにできたという年月の隔たり、そのブランクを、観客自身の想像力で埋めることを、パヴェウ・パヴリコフスキ監督は望んでいる。

鉄のカーテンと名曲「2つの心」

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本作のテーマ曲ともいえる「2つの心」モデルとなった民族合唱舞踊団「マゾフシェ」でスタンダードとされている曲だという。はじめは牧歌的なシンプルに、そしてジャズナンバーとしてアレンジを変え、再度登場する。

会えずに心が満たされない、という歌詞のこの曲で、耳に残るポーランド語の「oj, joj, oj 」というフレーズは、日本語に置き換えると「ああ、ああ、ああ…」という感嘆詞。ズーラが切なさと情熱を込めて歌う「2つの心」は特に印象的だ。

また、ヴィクトルがパリのジャズクラブで演奏するシーンも音楽的なハイライトといえるだろう。このジャズパートについては、クインテットを率いたマルチン・マセツキが別途編曲・指揮を担当しテイルた。

ときには時代に歯向い、ときには時代に耐え、音楽とともに数々の国を彷徨い、激しい運命を共にするヴィクトルとズーラ。最後に2人が選び取るものは、愛か、音楽か。そして最後に観る者に残されるのは、いかなる情熱なのだろうか。

作品ニュース

初日来場者へのプレゼント

ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷 、大阪のテアトル梅田は、6/28(金) 初回に来場者プレゼントあり。

 

特典付きムビチケカード発売中

劇場窓口、もしくはムビチケ公式サイトなどで、本作のモノクロポストカードをプレゼント中。

 

オススメしたい『COLD WAR あの歌、2つの心』

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  • 多ジャンルにわたる優れた楽曲と歌の数々
  • 過酷な冷戦時代に生きた日々
  • 驚きの展開で先の読めないラブストーリー
  • 生き生きした美しいモノクロ映像
  • 主演のヨアンナ・クーリクとトマシュ・コットの魅力

冷戦を主役に描くのではなく、あくまで「音楽を愛した運命の2人」の歴史を描くという姿勢の作品だ。

『COLD WAR あの歌、2つの心』作品情報

【あらすじ】
1949年、冷戦に揺れるポーランドでピアニストのヴィクトルと歌手を夢見るズーラは音楽舞踊団の養成所で出会う。正反対な性格の2人は、お互いの才能に惹かれながら恋に落ちる。しかし西欧の音楽を愛するヴィクトルは、ひとり、政府の監視を逃れパリに亡命する。やがてズーラは歌手になり、ヴィクトルに再会。2人の愛は再び再燃して…。

監督:パヴェウ・パヴリコフスキ
出演:ヨアンナ・クーリク、トマシュ・コット、アガタ・クレシャ、ボリス・シィツ、ジャンヌ・バリバール、セドリック・カーン ほか

脚本:パヴェウ・パヴリコフスキ、ヤヌシュ・グウォヴァツキ
撮影:ウカシュ・ジャル

音楽:マチュイ・パヴウォフスキ、ミロスワフ・スワヴィンスキ
ジャズ編曲・指揮:マルチン・マセツキ
ジャズ・クインテット:マルチン・マセツキ(Pf.)、ルイス・ヌビオラ(sax).、ピヨトル・ドマガルスキ(B)、マウリツィ・イジコフスキ(Tp.)、イェジー・ロギェヴィチ(Drs.)

原題:ZIMNA WOJNA
配給:キノフィルムズ
<2018年/ポーランド・イギリス・フランス/ ポーランド語・フランス語・ドイツ語・ロシア語 /モノクロ/スタンダード/5.1ch/88分/ DCP>
字幕翻訳:吉川美奈子
2019年6月28日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

coldwar-movie.jp

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(本ページの情報は2019年6月時点のものです。最新の配信状況は U-NEXT サイトにてご確認ください。)

【6/14公開】『ウィーアーリトルゾンビーズ』驚きの映像が連続! 8itゲームにリンクする13歳4人組は、音楽で感情取り戻せるのか?

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観た事もないめくるめく映像美の中で、感情をなくした4人の少年少女が、音楽に彩られた冒険の旅をくり広げる。1980年代に流行した8bitゲームの世界感を盛り込み、凝りに凝った映像と音楽が溢れかえる、新感覚の映画だ。監督は、2017年サンダンス映画祭・ショートフィルム部門で日本映画初のグランプリを獲得した長久充。本作も、2019年サンダンス映画祭・コンペティション部門にて審査員特別賞受賞、そして第69回ベルリン国際映画祭にて準グランプリを受賞した。

2019年6月14日(金)よりTOHOシネマズシャンテTOHOシネマズ新宿渋谷シネクイント池袋シネマ・ロサ ほか全国順次公開

圧倒的で美しい、観たことのない映像と音楽の連鎖

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とにかく「観た事のない映像」という言葉しか当てはまらない。圧倒的に美しい映像が途切れる事なく続く作品だ。

本作を撮った長久充監督は「どのカットを切り出してもキーカットになるような画しか撮らない」と決めていたという。美しく独特な映像には、念入りな下準備があった。長久監督は、全シーンの絵コンテを描き、スタッフが演じたビデオコンテを全篇分作ったうえで、計算し尽くしてカメラアングルを決めた。

そして美術、衣装、8bitデザイン、あらゆる方面から、監督が信頼するクリエイターが集結。虚構と現実、ファッションとアートが重なりあう、レイヤー的な世界観を、想像を越えるスケールで映像化。観ごたえというレベルを越え、まるで脳内でおもちゃ箱がひっくりかえり、情報が止まらずあふれ続けるようだ。

音楽へのこだわりも凄まじい。120分の作品の中に90曲もの楽曲が登場。次から次へと流れ出す音楽に映像を当て込んだような、テンポの良さが心地いい。

主人公4人が組んだバンド「LITTLE ZOMBIES」の音楽は、LOVE SPREADが担当。さらに劇中に登場する浮浪者楽団には、アコースティックオーケストラのパスカルズを中心としたミュージシャンが演じながら演奏する。さらにオペラ、フォークなど、既成曲をアレンジした楽曲も多数登場。そしてもちろん8bitサウンドと、多種多様な楽曲が全篇に散りばめられている。

フレッシュな13歳4人組に、豪華な大人たちをキャスティング

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この作品作りに集まったのは、作品を裏から支えるクリエイターだけではない。前出のミュージシャンたちの出演以外にも、実力派俳優陣&多種多様なキャストがずらりと顔を揃えている。

佐々木蔵之介、西田尚美、村上淳、佐野史郎ら中堅実力派俳優、そして海外でも才能を求められ世界に羽ばたく、工藤夕貴、永瀬正敏、初音映莉子、菊池凛子。近年の日本映画に欠かせない存在の、池松壮亮、山田真歩、渋川清彦らも登場する。

俳優以外のキャストも次々現れる。長久監督の世界感に惹かれ、不思議な映像の中の住人となった、めくるめく著名人の登場も、楽しみに観ることができる。

主演の少年たちは『そして父になる』の二宮慶多、多くの作品に出演してきた子役・水野哲志、そして親子でミュージシャン一家として活動し似顔絵画家でもある奥村門土。紅一点の少女イクコには、モデルとして活躍している中島セナがキャスティングされ、クールな眼差しと抑揚のないセリフまわしで、確かな存在感を放っている。

これは子どもたちが、現在や未来に絶望しないための物語

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事故や事件で両親を一度に失った、似通った境遇の13歳の少年少女4人が、火葬場で出逢う。なんだか絶望的な始まりのストーリーだ。しかも彼らは涙すら出ずに「まるで感情を失ったゾンビだ」と、自分たちをも冷めた目で見て語る。

未来も見えない、夢もない、気力もない…全くもって何もない子どもたち。しかし、彼らは自ら行動し、音楽を作るようになる。その先には、現実と虚構が混じりあったような摩訶不思議な光景が広がっていく。

彼らは自らを変えようと躍起になるわけでもなく、淡々しゃべり行動しながら世間と関わり、それぞれ何かを掴みながら冒険の旅を進める。4人は私たちの目を通し、既成概念をぶち壊し、自由へと解き放たれていく。絶望から始まるようなストーリーだが、その実「子どものための、希望の物語」という空気感は、最初から最後まで貫かれている。

作品ニュース

期待感高まる特報映像を多数公開中

本作公式の、特報映像が次々とアップされている。作品の一端が垣間見えるので、映画館に出かけるか迷っている方には、参考になるかもしれない。

【公式MV】WE ARE LITTLE ZOMBIES (テーマ曲) 

映画『ウィーアーリトルゾンビーズ』オープニングクレジット映像

“CHAIが語り尽くすLITTLE ZOMBIESの魅力とは?”

“菊地成孔が語り尽くすLITTLE ZOMBIESの魅力とは?”

▼【公式MV】WE ARE LITTLE ZOMBIES(エンディング曲)

youtu.be

 

舞台挨拶チケット販売中

公開記念舞台挨拶が公開2日目に行われる。現在購入可能のチケットは、TOHOシネマズ シャンテの上映スケジュールより、6月15日土曜日10:15〜の回をクリック。

 

コラボ商品で楽しもう

キャップ、そしてロールアイスのコラボ作品が登場している。作品の世界感を映し出しているカラフルなロールアイスは、ロールアイス専門「ROLL ICE CREAM FACTORY(ロールアイスクリームファクトリー)」原宿店で限定発売中。

 

オススメしたい『ウィーアーリトルゾンビーズ』

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  • 各界のクリエイター結集により実現した独創的な映像
  • 90タイトルの音楽が繋ぐテンポある展開
  • さまざまな作品にささげられたオマージュ
  • メインキャスト以外にも出演者多数

さまざまなクリエイター陣と丁寧に作りあげた本作には、あらゆる可能性を追求した結果がぎっしりとつまっている。とにかく贅沢な作品だ。1980年代のゲーム機だけでなく、身近な小道具まで使いこなすアナログ感覚も、最先端の高度な映像技術にiPhoneでの撮影を織り交ぜるアイディアも、バラエティに富んだ創造が丸ごと楽しめる。

また、音楽や公告業界を経て映画を撮るようになった幅広い見識を持つ長久監督は、過去の映画や音楽にさまざまなアレンジを加えて、オマージュを捧げている。そんなパートに気づくのも楽しいだろう。

『ウィーアーリトルゾンビーズ』作品情報

【あらすじ】

出会いは偶然だった。ある晴れた日に火葬場で出会った、ヒカリ、イシ、タケムラ、イクコ。 みんな、両親を亡くしたばかりだった。 ヒカリの両親はバス事故で事故死、イシの親はガス爆発で焼死、タケムラの親は借金苦で自殺、イクコの親は変質者に殺された。なのにこれっぽっちも泣けなかった。まるで感情がないゾンビみたいに。

「つーか私たちゾンビだし、何やったっていいんだよね」 夢も未来も歩く気力もなくなった小さなゾンビたちは、ゴミ捨て場の片隅に集まって“LITTLE ZOMBIES”というバンドを結成。 やがて社会現象になったバンドは、予想もしない運命に翻弄されていく…。

監督・脚本:長久允
出演:二宮慶多、中島セナ、水野哲志、奥村門土、佐々木蔵之介、工藤夕貴、池松壮亮、初音映莉子、村上淳、西田尚美、佐野史郎、菊地凛子、永瀬正敏、康本雅子、夏木ゆたか、利重剛、五月女ケイ子、山中崇、佐藤緋美、黒田大輔、忍成修吾、長塚圭史、池谷のぶえ、成井昭人、赤堀雅秋、清塚信也、山田真歩、松浦祐也、渋川清彦、かっぴー、いとうせいこう、CHAI、菊地成孔、森田哲也、吉木りさ(声)、柳憂怜、三浦誠己 ほか

撮影:武田浩明 照明:前島祐樹 サウンドデザイン:沖田純之介
美術:栗林由紀子 装飾:渡辺誉慶 衣裳:下山さつき ヘアメイク:光野ひとみ
助監督:平井淳史 キャスティング:田端利江 スクリプター:大西暁子
演出補:長田亮 制作担当:宮森隆介 編集:稲本真帆 カラリスト:根本恒
アートディレクション/ロゴデザイン:間野麗 VFXスーパーバイザー: 二瀬具洋
音楽プロデューサー : 山田勝也
リトルゾンビーズ音楽 : LOVE SPREAD リトルゾンビーズ衣裳 : writtenafterwards
リトルゾンビーズメイク : 加茂克也 アートワーク : magma
8bit/オープニング : たかくらかずき
製作幹事 : 電通 配給 : 日活 制作プロダクション : ROBOT
特別協賛 : フェイスマスクルルルン、 グライド・エンタープライズ

英題:WE ARE LITTLE ZOMBIES
<2019年/日本/120分/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/DCP>
2019年6月14日(金)よりTOHOシネマズシャンテTOHOシネマズ新宿渋谷シネクイント池袋シネマ・ロサ ほか全国順次公開
©2019“WE ARE LITTLE ZOMBIES”FILM PARTNERS

littlezombies.jp

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(本ページの情報は2019年6月時点のものです。最新の配信状況は U-NEXT サイトにてご確認ください。)

【6/1公開】『メモリーズ・オブ・サマー』少年が子どもでいられた最後の夏…痛みに満ちた思春期の記憶

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ポーランドの片田舎に住む12歳の少年が、ひと夏で体験した出来事を描く。父親不在の家庭で母と強い絆を育んできた少年が、孤独を知り、大人へと成長していく苦い記憶。ポーランドの新鋭、アダム・グジンスキ監督が自らの体験に重ね、脚本も担当。その夏、少年は最愛の母の愛情を見失い、初恋にゆらぎ、身近な死とすれ違う…。

2019年6月1日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー

たった一夏で消えてしまった最愛の母との絆

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仕事で父親は不在、だからこそ息子と絆を深め、日々を楽しんできた魅惑的な母親のヴィシア。だがその魅力を持て余してか、やがてヴィシアには、外に夫以外の男性の影がちらつくようになる。

息子である自分との絆を手放し、情緒不安的になっていく母。そんな母をかばうことは、父への裏切りにもなるというジレンマを味わう、少年ピョトレック。

子どもを卒業するための儀式としては、いささかヘビーな体験だ。物語はアダム・グジンスキ監督の体験がのベースになっているというが、この母親や父親との関係も、監督自身の体験なのだろうか。

大人への不信、生と死、初恋…次々崩壊する少年の世界

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健全な12歳ともなれば、そもそも興味は家庭に収まらなくなっていくものだ。折しもピョトレックの意識は、歪み始めた母との関係から外界へと向けられるが、そこは田舎町。外をみつめても、大自然と、近しい友人たちとの人間関係があるのみだ。

 その年のピョトレック少年の夏は、母との関係の崩壊だけでは終わらない。都会からやってきた少女に淡い恋心を抱き、近しい関係になってときめくが、それはやがて苦い思いに転化してしまう。さらに同世代の少年や、仲間となった年上の友人と、さまざまなすれ違いを味わうことになる。

子どもではいられなくなるのに、十分すぎるひと夏の記憶。もう子どもではない私たちも、少年ピョトレックの目を通してそれを追体験することができる。そして傷を負った若い心がどうやって再生していったのか。 そんな記憶をも、観客の胸に蘇らせてくれる作品といえるだろう。

映画大国ポーランドの新たな才能

f:id:kappa7haruhi:20190531204518j:plainポーランドは、今までも名匠といえる監督を輩出してきた。『地下水道』(1957年)『灰とダイヤモンド』(1958年)のアンジェイ・ワイダ監督や『ローズマリーの赤ちゃん』(1968年)、『戦場のピアニスト』(2002年)などのロマン・ポランスキー監督、そして『ふたりのベロニカ』(1991)三部作『トリコロール』(1993〜1994年)クシシュトフ・キェシロフスキ監督など。

さらに近年では『ゆれる人魚』(2015年)のアグニェシュカ・スモチンスカ監督、日本での公開も近い『COLD WAR あの歌、2つの心』のパベウ・パブリコフスキ監督など、新たな才能も解き放たれた。まさにポーランドは映画大国だ。

本作『メモリーズ・オブ・サマー』が、長編2作目だというアダム・グジンスキ監督。普遍的なテーマをみずみずしい感性とで撮り上げたこの作品を知ることで、多くの人が、今後期待する新たな才能だと認めることだろう。

作品ニュース 

初の演技体験で受賞

主人公の少年・ピョトレック役のマックス・ヤスチシェンプスキは、ポーランドの映画祭「ネティア・オフカメラ2017」でライジングスター賞を見事受賞。揺れ動く思春期を表現する繊細さと、強い目の表情など、その魅力にあふれているのが本作の魅力だ。

 

オススメしたい『『メモリーズ・オブ・サマー』』

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  • 思春期の卒業を追体験するノスタルジー
  • レトロ感漂う’70年代末のファッション&音楽
  • 美しい母、多感な少年を演じるキャスト
  • ポーランド田舎町の魅力あふれる風景

情感豊かな少年と美しい母親が紡ぎ出し、やがて崩壊してゆく関係が、夏の終わりを告げるような、痛みを伴う物語。風景が美しい分、切なさも募る。

ちなみの本作は、ポーランドでは2016年公開なので、約3年のタイムラグがある。夏とともに少年時代の終わりを体験したピョトレック少年役のマックス・ヤスチシェンプスキも、今やハイティーンになっている年頃だ。この1人の俳優の微妙な世代を切り取ったという意味でも、貴重な作品といえるだろう。

『メモリーズ・オブ・サマー』作品情報

【あらすじ】
1970年代末、ポーランドの田舎町。父が外国に働きに出ている家庭で、12歳の少年ピョトレック(マックス・ヤスチシェンプスキ)は、友だちのように仲がいい母親・ヴィシア(ウルシュラ・グラボフスカ)と、深い絆を育んでいた。2人は家でチェスやダンスをしたり、石切場の池で泳いだり、その夏も楽しく過ごしていた。しかし、ヴィシアはある日を境にはおしゃれをして夜な夜な出かけるようになり、その様子にピョトレックは不安を感じるようになる。やがてピョトレックは、都会からバカンスにやってきた少女・マイカに恋心を抱くようになるのだが…。

監督・脚本:アダム・グジンスキ
出演:マックス・ヤスチシェンプスキ、ウルシュラ・グラボフスカ、ロベルト・ヴィェンツキェヴィチ ほか

原題:Wspomnienie lata
撮影:アダム・シコラ 音楽:ミハウ・ヤツァシェク 録音:ミハウ・コステルキェビッチ
配給:マグネタイズ 配給協力:コピアポア・フィルム
<2016年/ポーランド/83分/カラー/DCP>
2019年6月1日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー
© 2016 Opus Film, Telewizja Polska S.A., Instytucja Filmowa SILESIA FILM, EC1 Łódź -Miasto Kultury w Łodzi

memories-of-summer-movie.jp

 

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【5/31公開】『氷上の王、ジョン・カリー』フィギュアスケートを芸術の域に押し上げた、伝説のスケーター

 

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時代と戦い、アイススケートをスポーツから芸術の域まで押し上げた、伝説の英国人スケーター、ジョン・カリー。生前のパフォーマンスやインタビューなど、貴重なアーカイブをたっぷり楽しめるドキュメンタリー。

金メダリストの称号、立ち上げたカンパニーの成功という氷上の華やかさの影で、孤独と挫折、スキャンダルへの偏見など、影の部分も包括。完璧な美しさと逃れられぬ苦しみの両面から彼の人生を感動的に描く。

 2019年5月31日(金)新宿ピカデリー東劇アップリンク渋谷アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

伝説のスケーター、ジョン・カリーの壮絶な人生

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美しいバレエに憧れ、ダンサーを夢見た少年時代のジョン・カリー。息子に男らしさを求める父親に「バレエを習いたい」という望みは断ち切られるも「スポーツだから」という理由でアイススケートは習わせてもらえたという。

卓越した身体能力とセンス、たゆまぬ努力で、やがてアマチュア選手として頂点を極めたカリーは、英国大会、ヨーロッパ選手権で優勝、インスブルック冬季五輪で金メダルを獲得する。

バレエの影響を強く受けたカリーは、あくまでスポーツであった男子選手のスケートを、鋼のような身体能力、完璧な技はそのままに優雅に表現することで「美しい芸術」へと押し上げていく。

しかし世間は、正当な評価をする前に、彼がオフレコとして漏らしたセクシャリティに関する情報に、興味を集中させてしまう。同性愛に理解がない時代だった。

そんな世の中に戦いを挑むように、カリーはプロに転向してカンパニーを立ち上げ、自らの表現を磨くことへと邁進していく。だが一方で、私生活は乱れ、ピリピリとした神経質な表情をむき出しにすることもあったという。

「僕の魂には才能と同じだけ悪魔が宿っている」と語るカリー本人の言葉のままに、悪魔に魅入られたような宿命を背負った、美しきスケーターの全てがここにある。

美しいパフォーマンスが蘇る! 貴重なアーカイブ

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本作のジェイムス・エルスキン監督いわく、作品の2/3はアーティストやスポーツ選手としての苦悩の物語であり、あとの1/3は世間や家族に自身のセクシャリティを抑圧された苦悩の物語だという。

本作は、1949年に生まれ、1994年にわずか44歳で亡くなるまでの、カリーの人生を丸ごと包括したドキュメンタリー作品ではあるが、各パーツでは、カリーの氷上でのパフォーマンスを、1曲通してじっくりと楽しめる、貴重なアーカイブが多数収録されている。

現在も多くのスケーターに影響を与え続け、静止画のポージングですら迫力を感じさせる、完璧な美しさをたたえたジョン・カリー、そしてカンパニーの仲間たち。彼らの氷上のパフォーマンスを動画で見られる喜びを、たっぷり堪能してほしい。

オーケストラによって再録音された音楽 

本作に登場する演目で使われている楽曲は、名曲ぞろいだ。たとえば「シェヘラザード」「タンゴ」「ジムノペディ」第1番・第3番、「ウイリアム・テル序曲」「青き美しきドナウ」など。

この作品は、ジェイムス・エルスキン監督の意向により、ジョン・カリーのパフォーマンスを、私たち観客がライブとして感じられるよう、60人の生身の演奏家による演奏で楽曲を再録音している。

スケート靴の滑走音や、熱狂する観客の声に、再録音したオーケストラの演奏が一体化し、臨場感あふれるステージが、スクリーン上に次々と展開する。映画館で観る価値を高めたオーケストラによる演奏を、併せてじっくり楽しんでいただきたい。

作品ニュース

お得なプレゼント付き前売り券

お得な前売り券には、クリアファイルのプレゼント付き。窓口での販売は、上演日前日まで。

 

当サイトからはプレスプレゼント

「東京・ミニシアター生活」から、5名様にプレスプレゼントを実施。ふるってご応募下さい。

 


オススメしたい『氷上の王、ジョン・カリー』

 

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  • 伝説のスケーター、ジョン・カリーの氷上パフォーマンス
  • インタビューで知るカリーの壮絶な人生
  • 再録音されたオーケストラによる迫力ある演奏
  • スケートの芸術性を切り開いたカリーの功績

多くのスケーターに今も影響を与え続ける伝説のスケーターのドキュメンタリー。光も闇も併せ持ったカリーの孤高の戦いは、観るものの胸を打つだろう。

映画『氷上の王、ジョン・カリー』作品情報

【あらすじ】

アイススケートをメジャースポーツへと押し上げ、さらに芸術の領域にまで昇華させた伝説の英国人スケーター、ジョン・カリー。1976年インスブルック冬季五輪フィギュアスケート男子シングルの金メダルを獲得する。しかし、マスコミが真っ先に伝えたのは、オフレコで漏らした彼のセクシュアリティについてだった。

映画はアスリートとしてのカリーだけでなく、栄光の裏にあった深い孤独、自ら立ち上げたカンパニーでの新たな挑戦、そして彼を蝕んでゆく病魔AIDSとの闘いを、貴重なパフォーマンス映像と、本人、家族や友人、スケート関係者へのインタビューで明らかにしていく。 

これは、時代に翻弄され不当な扱いを受けながらも、屈することなく高みを目指し、人を遠ざけながらも愛に飢え、滑り、踊り続けた男の物語だ。

監督:ジェイムス・エルスキン(『パンターニ/海賊と呼ばれたサイクリスト』)
出演:ジョン・カリー、ディック・バトン、ロビン・カズンズ、ジョニー・ウィアー、イアン・ロレッロ
ナレーション:フレディ・フォックス(『パレードへようこそ』『キング・アーサー』)
<2018年/イギリス/89分/英語/DCP/16:9>
原題:The Ice King
字幕翻訳:牧野琴子/字幕監修・学術協力:町田樹
配給・宣伝:アップリンク

 2019年5月31日(金)新宿ピカデリー東劇アップリンク渋谷アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

www.uplink.co.jp

©New Black Films Skating Limited 2018
©Dogwoof 2018

 

【5/18公開】『マルリナの明日』理不尽な暴力には屈服しない! 闘う女性の”ナシゴレン・ウエスタン”

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主演、監督とも女性という、女性が牽引するインドネシア西部劇が誕生。屈強な男たちを相手に、正義と”自分の明日”をかけて剣ナタを振るう、美しい未亡人マルリナの孤高の闘いを描く。すっきりと美しいインドネシアの島の大自然、手加減なしのバイオレンス、詩的で哀愁を帯びた映像が心に残る。異色作でありつつ、グッと魂を引き込まれる話題作。

2019年5月18日(土)渋谷ユーロスペースほか全国順次公開

暴力に抗い、男尊女卑の社会にも挑む、未亡人のヒロイン

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夫と子を亡くした美しい女性マルリナ。それがこの僻村の風習なのだろう、ミイラ化した夫とひっそり暮らしていた。そんな中、マルクスという男がやってくる。突然バイクで乗り付け「お前の財産を全部いただく」と宣言してくる。女一人住まいであることにつけ込まれたのだろう…こうして理不尽な仕打ちが、マルリナにのしかかる。

やがてマルクスの仲間である男たちがゾロゾロと集まってきて、いよいよ家を乗っ取られてしまい、男たちに「料理を作れ」とまで命じられるマルリナ。しかしそれが反撃のチャンスだった。暴行を受けながらも必死に策を立て、マルリナはたった一人で強盗団の男たちを倒し、ついに首領の首を刎ねてしまうのだ。

ほとんど取り乱すことなく、静かな怒りをたぎらせ、ここぞというところで大胆に行動するマルリナは、まさにマカロニウエスタンのヒーローのよう。端正な顔立ち、クールな表情に惹きつけられる。

演じるマーシャ・ティモシーは本作の監督・モーリー・スリヤとは現場で旧知の仲だという。「悲劇的なキャラクターのオーラを放つ、知的で成熟した女優」という評価で、マルリナ役に決まった。本人もマルリナ役を熱望したそうだ。

インドネシアでも独特なスンバ島で撮影

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マカロニ・ウエスタンならぬ、ナシゴレン・ウエスタンの雰囲気を醸し出すロケーションは、インドネシアでも独特な文化をもつ「スンバ島」という土地。草木が生い茂りつつ、大気とともに乾燥しているので、まるでアメリカ・テキサスの荒野みたいな印象を与える。

スンバ島の村では、なぜか人々が武器としてとしてサーベルを持ち歩いているそうだ。人々の暮らしは質素だが、その一方で、携帯電話という近代的なアイテムも使われているようで、作品にも出てくる。そのアンバランス感が面白い。

美しい自然に囲まれ、古い文化や信仰が守られているスンバ島には、インドネシア人でも一部の人だけが使っている、島独自の言語・スンバ語が存在する。その耳慣れないスンバ語で歌われる劇中歌の歌声が、異国の香りが立ちのぼるようで魅惑的だ。

また劇中で強盗団の男が手にして弄ぶ2弦の民族楽器の音色も、男が首を刎ねられたあとには哀愁を帯びて耳に響いてくる。

ミイラ、斬首、そして死んだはずの男…哀愁を帯びたダークな描写

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「タランティーノを超えた新スタイル」とうたわれている本作だが、たしかに常におどろおどろしいものが画面に映っている。まずのっけから夫のミイラがあり、そのまま部屋に鎮座し続ける(ちなみに生身の人間が演じているそうだ)。

やがてマルリナは、自分の正当性を訴えるための旅に出るのだが、その旅路では、自分が刎ねた強盗団の首領の首を常に腕に抱えている。さらに血みどろの戦いはその後も続く。しかしこれらの描写に、なぜか露悪感はなく、静かな物悲しさが感じられる。

旅するマルリナを追いかけてくる幻想的な男の姿も現れる。それは幽霊ではなくマルリナの心の表れだ。自分のやったこと、決断したことは決して消えることなく、常に自分の後をついてくる…少し恐ろしいけれどそれが宿命というものなのだ。

作品ニュース

数量限定、初日プレゼント!

渋谷・ユーロスペースでは、数量限定の初日プレゼントがあるという。インドネシアのグッズ好きなら、ちょっとうれしくなる企画だ。

 

 

オススメしたい『マルリナの明日』

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  • 暴力、社会、家庭…あらゆる理不尽と闘う女の姿
  • インドネシア・スンバ島の美しい自然
  • 民族楽器やスンバ語の歌…土着の文化
  • 特色あるインドネシアの哀愁伴う映像美
  • 西部劇を思わせるエンタテイメント性

「復讐」「荒野」「哀愁の音楽」とマカロニ・ウエスタンに必須な条件揃えつつ、インドネシアならではの要素をたっぷり入れ込んだ、ナシゴレン・ウエスタン。そして、男尊女卑と闘う、リアルな女性の物語でもある。

『マルリナの明日』作品情報

【あらすじ】
夫と子供を亡くし、荒野の一軒家に住む未亡人マルリナ。突然やってきた7人の強盗団は、マルリナから全てを奪おうとする。たった一人で反撃に出たマルリナは、強盗団の男たちを殺してしまうが、自らの正当性を訴えるため、刎ねた首を抱え警察へ向かう旅に出る。しかし同時に、復讐に燃えた強盗団の残党が、マルリナの後を追い始め…。

監督:モーリー・スリヤ
出演:マーシャ・ティモシー、デア・パネンドラ、エギ・フェドリー、ヨガ・プラタマ
原題 :Marlina the Murderer in Four Acts
配給:パンドラ
予告編:イメージ・フォース
後援:インドネシア共和国大使館
<2017年/インドネシア・フランス・マレーシア・タイ共同作品/インドネシア語/95分>
字幕翻訳:松岡葉子
2019年5月18日(土)渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
© 2017 CINESURYA - KANINGA PICTURES - SHASHA & CO PRODUCTION – ASTRO SHAW ALL RIGHTS RESERVED

marlina-film.com

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(本ページの情報は2019年2月時点のものです。最新の配信状況は U-NEXT サイトにてご確認ください。)

【イベントレポート】映画『氷上の王、ジョン・カリー』 ジャパンプレミア★町田樹×宮本賢二「未来へと受け継がれるジョン・カリーの魂」

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2019年5月7日、新宿ピカデリーにて、映画『氷上の王、ジョン・カリー』ジャパンプレミアが行われました。さらに終映後には、フュギュアスケート界のレジェンドである町田樹さんと振付師の宮本賢二さんによるアフタートークイベント「未来へと受け継がれるジョン・カリーの魂」を開催。

”氷上の哲学者”とも呼ばれる町田さんの知的でなめらかな口調の解説、そして宮本さんの的確ながら笑いも誘うサービス精神溢れるトークで、フュギュアスケートファン溢れる会場を熱く盛り上げました。「東京★ミニシアター生活」では、当日の様子をトーク内容とオリジナル画像でレポートします。

美しいジョン・カリーのスケートを見事に切り取った映画

-まず本作の感想を聞かせてください。

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町田樹さん(以下、町田):何といってもジョン・カリーというスケーターの身体の美しさですよね。彼は映画でも描かれていたと思うんですが、フィギュアスケーターと同時にバレエダンサーも、志した人なんです。ですからフィギュアスケーターとバレエダンサー…「デュアルキャリア(2つのキャリア形成に、同時に取り組んでいる状態)」を歩んだものにしか体現できない美を、彼は氷の上で体現していたというのが、すごくこの映画から伝わってきました。スケート靴を履いた人間が、美しく映える身体のフォルムを熟知している人。

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宮本賢二さん(以下、宮本):まず、スケート自体の美しさ。力を入れずにスーッっと滑るところが真似は簡単にできないなという所と、いろんな困難な状況の中で、彼のスケートへの情熱や努力で、困難を乗り越えていったという姿がとても印象的でした。

-町田さんが字幕監修、学術協議という形でこの映画に関わることになった経緯は?

町田:『KISS & CRY』という雑誌で、良質なフィギュアスケート作品を批評するという連載を持っていたことがあって。その第1回目にジョン・カリーを選んだんです。そのことを本作配給のアップリンクが注目してくださって、声をかけていただきました。

-町田さんが『KISS & CRY』での連載第1回にジョン・カリーを選んだ理由は?

町田:芸術としてのフィギュアスケート作品を通史で見たとき、パッと、ジョンカリーの名が輝くんです。それに、私がジュニアグランプリで初めて、そして唯一優勝した大会が、イギリスで開催された「ジョン・カリー メモリアル」という大会だったんです。私とジョン・カリーの縁はそこから始まるわけなんです。

ジョン・カリーとはもともと縁が深かった町田さん

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町田:その後、私が踊った『エデンの東』『火の鳥』を振り付けたフィリップ・ミルズ先生という振付師が、劇中にも登場したジョン・カリーの先生、カルロ・ファッシさんのお弟子さんなんです。彼がバレエ界から、フィリップ・ミルズ先生をフィギュア界に招聘して、フィギュアの振付師に育てた人。だから、フィリップ・ミルズ先生から少しジョン・カリーの話は聞いていました。

ーでは、縁浅からぬ関係ですね

町田:はい。この映画のプロジェクトが始まったのが昨年8月。そこからずっと字幕監修したり、パンフレットに寄稿したりで半年以上経ちましたから、今日という日を待ちわびてました。字幕というのは、短いシーンの中にも視認性を高めた状態で入れていかなくちゃいけないので、1つのワードでいかに伝えるかを意識しました。下地の字幕はありましたので、フィギュアスケート用語を中心に、シーンに合うように監修させていただきました。

ジョン・カリーはすべてのスケーターの指標

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ー宮本さん、改めてジョンカリー選手の印象は?

宮本:1つの狂いも出さない、完璧主義者という感じですね。最初の『ドン・キホーテ』でも、スキッド(横滑り)の角度も、最後に絶対ズレてないんですね。角度があれば止まるタイミングが早くなるんですが、それを曲に合わせて浅いところで入って音で終わらせる、それもバックアウトからしていて…とにかく、細部まですごいんです。

町田:インスブルックオリンピックで、ノーミスで金メダルをとった『ドン・キホーテ』という作品は、ジョン・カリーの伝記によると、本番までの1カ月間、練習でもずっとノーミスだったそうなんです。

ーそれはどれくらいすごいことなんですか?

町田:たとえば、私が2014年、銀メダルをとった世界選手大会…あのシーズンに「1カ月間ノーミスで」と言われたら、多分ロト6を当てるくらい難しいです(笑)。彼には絶対的な自身があって「練習に裏打ちされた結果と美」だということですね。

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ー町田さんはフィギュアスケート専門誌で「町田樹セレクション・スペシャルアワード」という連載をされているそうですが、ジョン・カリーにアワードを贈るとしたら?

町田:「ポラリス(北極星)賞」という賞を贈りたいと思います。要は不動の起点として輝いている人。フィギュアスケーターだれもが目指すべき「指標」だと思います。文学作品や芸術の分野では、偉大な作品を「キャノン」という呼び方をしますが、ジョン・カリーの生み出した作品はキャノンと言える。目指すべき、学ぶべき作品です。

ー宮本さんが本作で特に印象的だったプログラムは?
宮本:後半の方に出てきた『ムーンスケート』。スケートって音楽と一緒に滑って、相乗効果で美しくなるものですが『ムーンスケート』に限っては、一瞬、彼の演技で音楽を忘れ去る、消えるというイメージを持ったんです。こんな表現の仕方があるんだ、とかなり衝撃を受けました。

ー町田さんが印象深かったプログラムは?

町田:あえて挙げるとしたら『牧神の午後』(※)。『牧神の午後』は、バレエ界ではニジンスキーが振り付けした、それこそキャノンですけれども。そこから多大なインスピレーションを受けて(『ロシュフォールの恋人たち』という映画を振り付けた)ノーマン・メーンと、ジョン・カリーが作った作品ですね。

ジョン・カリーの『牧神の午後』は、今でもいろんなスケーターに影響を与えています。スケーターたちは、ジョン・カリーの振り付けから多くを引用して、プログラムに入れているんです。もちろん私も『牧神の午後』から引用させていただいた振りはいくつもあります。

(※印象深いジョン・カリー作品として、もう1作『After All』のタイトルも挙がった)

今のフィギュア界がジョン・カリーから受け継いでいるもの

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-お2人は振り付けをするとき、どのようにされているんでしょうか?

町田:私がモットーとしていたのは、優れた音楽をビジュアライズ(視覚化)するということですね。

宮本:私は、現役選手でいうと「去年より点数が高くなるように」「もっと綺麗に見えるように」「ジャンプが飛びやすくなるように」と。1つでも順位が上がるようにということを考えながら振り付けをしています。

-今の選手たちは、ジョン・カリーから何を受け継いでいると思いますか?

宮本:人を惹きつける演技力、あとはスケートの”伸び”ですね。力を入れず、どうやってスピードを出しているんだろうとか、そういう技術的なところも引き継がれていると思います。

町田:やはり「フィギュアスケートは、スポーツであると同時にアートやエンターテイメントである」ということを、だれもが胸を張って言るようになったのは、ジョン・カリー世代の功績だと思います。

この映画でも描かれていましたが、1960〜70年代は、男性が優雅に踊ることが許されなかった。偏見があったんです。彼はその偏見と戦って打ち破った人。私もプロ活動をしていた頃、その意志を継ぐというところもあって「フィギュアスケートは舞踊である」と社会に発信する熱い思いを込め、作品を演じることをがんばっていました。

映画『氷上の王、ジョン・カリー』の魅力

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町田:おそらくフィギュアスケート界において、完全なドキュメンタリー映像で構成された映画は、この『氷上の王、ジョン・カリー』が初めてなんじゃないでしょうか。その初めての試みが、ジョン・カリーという素材によって取り組まれているということで、世界的に注目されている作品。

この映画のジェイムス・エルスキン監督も「映像でアーカイブすることは大事だ」と言っていますが…本当にスポーツがそうなんですが、人間の身体運動は映像でしか記録できないんですよね。

そういう意味で、いかに映像のアーカイブで記録を構築していくかというのは、今後のフィギュアスケート界の課題だと考えていますし、私も取り組んでいきたいことの1つです。そういう意味でも、この作品は、本当に価値がある作品です。

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宮本:スケートの映画ができるというのは本当にうれしいことです。みなさんもぜひスケートリンクにお越しになって、スケートの体験もしてください。

町田:この映画は、ジョン・カリーの身体の美、作品の美を堪能できる映画であるとともに、きらびやかな氷上の舞台の裏側では、ジョン・カリーは様々な困難を抱えていて、それと戦いながら舞台に立っています。それは今も変わりません。今も多くのプロフィギュアスケーターが、ジョン・カリーが戦ってきたのと同じような葛藤と向き合いながら演技をしています。

これからも、ぜひプロフィギュアスケーター全員を、温かい目で応援して頂けたらうれしいと思います。ぜひよろしくお願いします。

            ★

 2019年5月9日(木)@新宿ピカデリー
登壇:町田樹(慶應義塾大学・法政大学非常勤講師)、宮本賢二(振付師)
司会:蒲田健(MC・パーソナリティー)
映画配給・企画:アップリンク
取材・編集・撮影:市川はるひ 

映画『氷上の王、ジョン・カリー』作品情報

 2019年5月31日(金)新宿ピカデリー東劇アップリンク渋谷アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

【あらすじ】アイススケートをメジャースポーツへと押し上げ、さらに芸術の領域にまで昇華させた伝説の英国人スケーター、ジョン・カリー。1976年インスブルック冬季五輪フィギュアスケート男子シングルの金メダルを獲得する。しかし、マスコミが真っ先に伝えたのは、表に出るはずのなかった彼のセクシュアリティだった…。
映画はアスリートとしてのカリーだけでなく、栄光の裏にあった深い孤独、自ら立ち上げたカンパニーでの新たな挑戦、そして彼を蝕んでゆく病魔AIDSとの闘いを、貴重なパフォーマンス映像と、本人、家族や友人、スケート関係者へのインタビューで明らかにしていく。
これは、時代に翻弄され不当な扱いを受けながらも、屈することなく高みを目指し、人を遠ざけながらも愛に飢え、滑り、踊り続けた男の物語。

 

監督:ジェイムス・エルスキン(『パンターニ/海賊と呼ばれたサイクリスト』)
出演:ジョン・カリー、ディック・バトン、ロビン・カズンズ、ジョニー・ウィアー、イアン・ロレッロ
ナレーション:フレディ・フォックス(『パレードへようこそ』『キング・アーサー』)
<2018年/イギリス/89分/英語/DCP/16:9>
原題:The Ice King
字幕翻訳:牧野琴子/字幕監修・学術協力:町田樹
配給・宣伝:アップリンク

www.uplink.co.jp

©New Black Films Skating Limited 2018
©Dogwoof 2018

 

【5/3公開】『ドント・ウォーリー』アル中、大事故から感動の再生…風刺漫画家ジョン・キャラハンの半生

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カメレオン俳優ホアキン・フェニックス主演で、車いすに乗った風刺漫画家ジョン・キャラハンの半生を映画化した、実話のヒューマンドラマ。人生のどん底を味わったキャラハンが己を取り戻し、過去と決別するまで。依存症からの脱却、障がいの苦労などを通し、力強く生きる社会的マイノリティの姿を描いた、観応えたっぷりの感動作だ。

2019年5月3日(金・祝)ヒューマントラストシネマ有楽町ヒューマントラストシネマ渋谷新宿武蔵野館 ほか全国順次公開

車いす生活へと変えた事故。それはただの不運ではなかった…

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人生の半ばに車いす生活になってから風刺漫画家として花咲いたジョン・キャラハン。本作では、風刺漫画家として大成するまでの、長い道のりを観せていく。車いすでの暮らしを余儀なくされたキャラハンは、アルコールに依存してしまう。

車の助手席に乗っていたときにひどい事故にあい、突然、胸から下の全身麻痺という、大きな後遺症をかかえるようになってしまうのだが、原因となった事故はただの不運ではなかった。そのときキャラハンはすでにアルコール中毒であり、泥酔した友人とドライブをしていたのだ。

13歳から飲み続けなければならなかったというキャラハンは、アルコールからの脱却のため、アルコールに依存した理由にも、向き合っていくことになる。

依存からの脱却は、依存の元凶から解放されるということ

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何かに熱中するということや、夢中になって取り組むことと違い「依存する」ということは、良くない傾向だ。アルコール依存は、その最たるものと言えるだろう。適量を嗜むところで止められなくなる依存には、何の依存にしても、おそらく何かしら元となる理由があるのだろう。

劇中でキャラハンは、禁酒のためのステップを1つずつ踏むことになる。救われること、許すこと、自分自身が解放されること…。自ら心の傷を癒し、人生を切り開くこの禁酒メソッドは、アルコールのみならず、あらゆる依存から解放されるヒントとなるかもしれない。

キャラハンが回復プログラムに取り組む姿は、観ている者に「そうであれ」と思わせホッとさせてくれる初歩的な段階がある。しかし、ステップを重ねていくと、その壮絶な苦しみに胸を痛め、キャラハンに共感するようになるだろう。

そんな姿を通して伝えられる「弱い人間ほど強くなれる」というメッセージは、幅広い層の人々の心に届き、勇気を与えてくれる。


ロビン・ウィリアムズからホアキン・フェニックスへ

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故人ロビン・ウィリアムズが映画化を熱望した、ジョン・キャラハンの半生。その意思をガス・ヴァン・サント監督が引き継ぎ、主演にホアキン・フェニックスを迎えた本作。役にのめり込むことで知られるホアキン・フェニックスは、その才能を存分に発揮している。

車いすを高速で乗り回したというジョン・キャラハンの姿そのままに、ギョッとするほどのスピードで駆け抜け、転んでしまい、固まった四肢のまま放り出されるというシーンですら、スタントマンの起用を拒否し、ホアキン・フェニックス自身で演じているという(良し悪しはさておき、危険なチャレンジを止められない、高いモチベーションは本物だ)。

容姿や仕草のみならず、内面にまで迫る役作りに取り組んだホアキン・フェニックスをはじめ、さまざまな人々の熱い思いが届いてくる、濃厚な作品だ。

作品ニュース

プレスシートプレゼント

監督のサイン入りプレスシートのプレゼントを、Twitterの公式アカウントで5月末日まで実施中。フォロー&リツイートで簡単に応募できるので、チャレンジしてみては?

 
メイキング映像を配信中

ガス・ヴァン・サント監督が思い入れたっぷりに、本作を解説しているメイキング動画を配信中。予告編よりさらに詳しいあらすじに触れているので、あまり前情報を入れたくない方は、作品を観た後から観るのがおすすめ。

 

オススメしたい『ドント・ウォーリー』

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  • ホアキン・フェニックス渾身の役作り
  • 救いの女神役、ルーニー・マーラのキュートさ
  • 依存症からの再生ステップがわかる
  • さまざまなマイノリティの登場人物
  • 車いす生活への理解が深まる描写

幼児期の心の傷とも戦うキャラハンとともに禁酒プログラムに取り組む仲間には、さまざまな事情を抱えた人々が登場する。LGBTへの無理解に悩む人、暴力衝動を持て余す人、重い病を抱える人…。社会的マイノリティとされ、アルコール依存に悩む人々が己と戦う姿は、明日への勇気と感動を与えてくれるだろう。

『ドント・ウォーリー』作品情報

【あらすじ】
アルコール頼りの日々を送っていたジョン・キャラハンは、交通事故で胸から下が麻痺する後遺症を負い、車いす生活を余儀なくされてしまう。ますます苛立つ日々の中、大切な人々との出会いにより、自分を変えるきっかけを得たキャラハンは、過去から自由になる強さを得ていく。やがて持ち前のユーモアを発揮し、不自由な手で風刺漫画を描き始め…。

監督・脚本・編集:ガス・ヴァン・サント
出演:ホアキン・フェニックス、ジョナ・ヒル、ルーニー・マーラ、ジャック・ブラック ほか
音楽:ダニー・エルフマン
原作:ジョン・キャラハン
原題:『Don’t Worry, He Won’t Get Far on Foot』
配給:東京テアトル
<2018年/アメリカ/英語/115分/カラー/PG-12 >
2019年5月3日(金・祝)ヒューマントラストシネマ有楽町ヒューマントラストシネマ渋谷新宿武蔵野館 ほか全国順次公開
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www.dontworry-movie.com

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