
第二次世界大戦下、ドイツの人里離れた場所に若い女性たちが集められ、命じられたある極秘任務。それは、ヒトラーの食事に毒が入っていないかを確かめる「毒見役」になることだった。
2012年、「私はヒトラーの毒見役を務めていた」と告白したドイツ人女性マルゴット・ヴェルクの証言に基づく物語。女性たちが経験した恐怖と葛藤、極限状態だからこそ生まれた連帯を描く歴史サスペンス。監督は、イタリア出身のシルヴィオ・ソルディーニ 。
2026年7月31日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
女たちの反発と連帯

ベルリンの爆撃を逃れたヒロインのローザは、ポーランドの田舎町で戦地にいる夫の帰りを待っていた。しかしある日突然、ヒトラーの毒見役に選ばれ、総統大本営へと連れて行かれることになる。そこに集められたのは、戦争で夫を失った女、家族にも言えない秘密を抱えた女、さまざまな事情を背負った女たちだった。
それぞれが失ったもの、抱えている不安、置かれた境遇への怒りを胸に秘めていた彼女たちの関係は、ぎこちないものだった。ローザが「夫の帰りを待っている」と言えば、戦争未亡人からは羨望や嫉妬を向けられた。しかし、銃を突きつけられながら食事を口にする恐怖を共有するうち、女たちの間には少しずつ変化が生まれていく。
命を守るための沈黙。権力への恐怖。そして、自由を奪われた日常への不満。極限状態の中でむき出しになる感情がぶつかり合いながら、やがて彼女たちは互いを支え合うようになる。本作の大きな見どころは、「毒見役」という異常な状況の中で生まれる、この女たちの反発と連帯だ。
生き抜くための選択が生むスリル

毒見役という役割は、ただ食事をするだけではない。口にする一皿が、自分の命を奪うかもしれない。その恐怖と隣り合わせの日々の中で、彼女たちは「生きたい」という根源的な欲求と向き合うことになる。本作がスリリングなのは、登場人物たちの行動が常に「生き抜くための選択」として描かれている点だ。
誰かを信じるのか。裏切るのか。危険を冒してでも行動するのか。それとも沈黙するのか。そこには、単純な善悪では割り切れない、人間の本能がある。人は誰しも、生き延びたい、愛されたい、自由でありたいという根源的な欲求を持っている。一方で、社会や文化、権力によって形作られる「こうあるべき」という欲求も存在する。その2つの間で揺れ動く葛藤を、本作は戦時下という極限状況を通して浮かび上がらせる。
80年前の物語が、現在も響く理由

「ヒトラーの毒見役」という存在が、歴史的事実としてどこまで正確なのかについては、現在も議論がある。しかし重要なのは、長い年月を経て、戦争によって利用された経験を語る女性が現れたということだろう。戦争は戦場だけで起きるものではなく、銃を持たない人々の暮らしや身体、人生にも深い傷を残す。
本作は、単に過去の悲劇を再現する作品ではない。そこに描かれるのは、時代が変わっても繰り返される抑圧の構造や、権力によって奪われる個人の尊厳だ。80年前の若い女性たちが置かれた状況を通して、私たちは、現在の社会が抱えるさまざまな問題にも目を向けることになるだろう。
細部まで息づく、彼女たちの人生

本作の魅力は、歴史的背景だけではない。衣装、小道具、室内の雰囲気、脚本、そして一人ひとりのキャラクター造形。その細やかなディテールによって、スクリーンの中の女性たちは「戦争映画の登場人物」ではなく、悩み、迷い、怒り、笑う、生身の人間として立ち上がってくる。
80年前の悲劇を生き抜いた彼女たちの人生が、まるで今そこに存在しているかのように感じられる。命を懸けた食卓で、彼女たちは何を失い、何を守ろうとしたのか。『ヒトラーの毒見役』は、戦争の記憶を描くだけでなく、極限状態でも尊厳を失わず、生きようともがく人間の姿を映し出す作品である。
作品ニュース
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オススメしたい『ヒトラーの毒見役』

- 「毒見役」という異常な状況の中で生まれる、女たちの反発と連帯
- 登場人物が生身の人間として感じられる細やかなディテール
- どんな状況でも生きようとする人間の強さと欲望
- 権力によって奪われる個人の尊厳について考えるきっかけに
『ヒトラーの毒見役』作品情報
【あらすじ】
1943年の第二次世界大戦末期。ベルリンの爆撃を逃れ、義両親が暮らす小さな田舎町で、戦地にいる夫の帰りを待つローザ(エリーザ・シュロット)。その場所は狼の巣と呼ばれる、ヒトラーが総統大本営をおいていた森の近くだった。
ある日、彼女はヒトラーの毒見役に命じられ、他の女性たちとともに、親衛隊による監視のもと銃を突きつけながら食事をすることに。ヒトラーが食す最高の料理を、死と隣り合わせの最悪な状況で試食する苦悩の日々。絶望的な日常を共にするローザたちは、ぶつかり合いながらも連帯していく。そして、1944年7月。総統大本営でヒトラーの挨拶を狙うクーデター(7月20日事件)が勃発。戦局が混迷を極める中、彼女たちの運命は……。
監督:シルヴィオ・ソルディーニ
出演:エリーザ・シュロット、マックス・リーメルト、アルマ・ハス―ン、エマ・ファルク、オルガ・フォン・ラックヴァルト、テア・ラッシェ、ベリット・ヴァンダー、クリームヒルト・ハーマンほか
原題:Le assaggiatrici
原作:ロッセラ・ポストリノ「ヒトラーの毒見役」
配給:アンプラグド
<2025年/ドイツ語/123分/イタリア・ベルギー・スイス/カラー/1.85:1/5.1ch/PG12>
日本語字幕:大塚美左恵
2026年7月31日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開


©2025 Lumière & Co. / Tarantula / Tellfilm / Vision Distribution
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