【10/6公開】『白鍵と黒鍵の間に』昭和末期、銀座のジャズクラブを漂う2人のピアニストとクセ者たちの狂乱の一夜

伝説の雑誌編集者の半生を描いた『素敵なダイナマイトスキャンダル』から5年、冨永昌敬監督が、今度はミュージシャン南博氏の回顧録を劇映画化。

ピアニスト2役を演じ、自ら演奏も披露する池松壮亮を主演に、クセ者のキャストをずらりと揃え、軽妙ながら核に切なさを持つ独自の感覚で、昭和末期の銀座のジャズクラブを描く。クリスタル・ケイら、名うてのミュージシャンも出演、音楽のハイライトシーンも充実している。

2023年10月6日（金）テアトル新宿ほか全国公開

ピアニストの回顧録が奇想天外なエンターテイメントに

原作は、ジャズピアニスト南博氏の回顧録なのだが、映画化に当たりさまざまな演出が加えられている。まず南氏が銀座で過ごした3年間を、たった一晩のストーリーへと凝縮。その上で3年間の変化（変身）、ビフォーアフターを共に存在させるため、1人の主人公「南博」を見習いピアニスト「博」と、熟練ピアニスト「南」の2人の人物とに分け、その両方を主演・池松が演じるという驚きの手法をとった。

池松の繊細な演技の賜物か、観客は思いの外、状況を混乱なく飲み込める。なんとか銀座のジャズ界に潜り込もうともがく、落ち着きのない新人ピアニストが、3年後には街の淀みにはまったような憂いある表情に変わってしまう。2人は全く別な他人なのではなく、メビウスの帯のようにつながっているのである。

揃いもそろったクセ者オンパレードのキャスト

池松壮亮、仲里依紗という主演俳優として引っ張りだこの2人に、森田剛、高橋和也、松尾貴史、佐野史郎、洞口依子と、熟練の豪華クセ者キャストを贅沢に揃えた本作。また、冨永監督作品には欠かせない俳優陣、川瀬陽太や杉山ひこひこが、今回も印象深い役柄で登場。

どの俳優もそれぞれの持ち味を存分に生かし、滑稽に、時には哀愁を帯びながら、冨永作品ならではの色合いを持った「昭和の銀座」に存在し、群像劇としても楽しませてくれる。

「ノンシャラントに…」ライブを楽しめるハイライトシーンも

本作では、3年という時を一晩に置き換えるため、現実離れした人間関係とシュールな展開によって、主人公の葛藤や人生の岐路が描かれる。さらに、音楽的な感覚もふんだんに活用。必然として登場する本気のライブシーンもその1つだろう。

本作では俳優として味を出しつながらも本業のサックスをガッツリ演奏する松丸契（けい）と、歌手クリスタル・ケイが加わるライブシーンはまさに音楽的な見どころだ。

また、博がゴタゴタに巻き込まれるきっかけとなる楽曲「ゴッドファーザー　愛のテーマは、本作の音楽担当でピアニスト魚返明未（おがえあみ）がアレンジ。それをを劇中で披露できるよう、池松は半年かけてピアノの練習をしたというから、執念である。

劇中にも原作にも登場するキーワード「ノンシャラント」とはフランス語で直訳すると「軽妙に」「軽快に」なのだが、ジャズ音楽の含みを加味するととても複雑なニュアンスになるらしい。確かに本作で耳に入ってくる音楽は「軽快」なだけでは済まされず、澱（おり）のようなものが漂っている気がする。

オススメしたい『白鍵と黒鍵の間に』

味わいたっぷり、クセもの揃いのキャスト
池松壮亮が「同じ人物を2人の役」として演じわける
3年間のミュージシャンの回顧録を一晩の物語に凝縮
音楽の見せ場となるライブシーンも登場

『白鍵と黒鍵の間に』作品情報

【あらすじ】
昭和63年。銀座のキャバレーでピアノを弾いていたジャズピアニスト志望の博（池松壮亮）は、謎の男（森田剛）からのリクエストで「ゴッドファーザー　愛のテーマ」を演奏する。しかし「ゴッドファーザー　愛のテーマ」をリクエストできるのは銀座を牛耳るヤクザの親分・熊野会長だけで、演奏を許されているのも会長お気に入りのピアニスト・南（池松・二役）だけ。未来に夢を見る博と、夢を見失ってしまった南の運命は絡みあい、多くの人々を巻き込みながら事態は思わぬ方向へと転がっていく。

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