自作のキャラクターを悪用されてヘイト騒動に巻き込まれてしまった、米アンダーグランド・コミック界で人気のアーティストのマット。心も名誉も傷ついた彼を救うため、一連の出来事を追って、マットの友人である監督のアーサー・ジョーンズが、ドキュメンタリーを制作。アニメーションを駆使しながら、ホットでダークな問題を浮き彫りにする。
単なる著作権問題ではなく、ノンポリの無名アーティストがSNSやインターネットの強大な影響力によって、大統領選や陰謀論の場へと引きずり出されていく恐怖体験を追ったポリティカルドキュメンタリーだ。
2021年3月12日(金)ユーロスペース、新宿シネマカリテにてロードショー ほか全国順次公開
哀れ、インターネット・ミームになったカエルのぺぺ
子どものころからイラストを描くことが大好きだった、アーティストのマット・フューリー。マットは生き物も大好きで、特にカエルがお気に入り。幼少期からカエルを描き続け、長い時間をかけてぺぺという名の「ご機嫌なカエル」のキャラクターを生み出した。そしてぺぺとその仲間たちを主人公に、大学卒業後の仲間との楽しい日々を反映させたマンガ作品を描いている。
ぺぺは一般的に有名ではないけれど、知る人ぞ知るキャラクターとして、アンダーグラウンドシーンで人気に。何より、子どものころから大切に温め続けたマット自身が愛情を注ぎ込んだ大事な存在だった。
ところがある日、米国の5ちゃんねる的な掲示板に、ぺぺが改変されて人種差別のネタして使われてしまう。しかもそれをきっかけに、ぺぺは模倣・改変される画像ネタ(インターネット・ミーム)として流行してしまうのだった。
キャッチーで、真似して描きやすいぺぺを、ネットの住民たちは好んで好き放題に遊び倒していく。マットの生み出した「元祖ぺぺ」の存在すら知ることもなく……。
優しいマットの性格が災いしたのか? 誰にも止められない増殖!
インターネットの拡散力とスピードは恐ろしいほど強大だ。優しく寛容なマットが悠長に構えていた間にみるみる状況は変化し、ぺぺは白人至上主義のアイコンとして、米国中に広く知られることになってしまう。ぺぺが初めからピカチュウのように有名ならば、あるいはぺぺがこんなにも魅力的でなければ、ここまでの大きな悲劇にはならなかったかもしれない……。
改変される中で、ぺぺは邪悪な顔つきにされたり、ヒトラーと融合されたりしていたが、最終形としてあのドナルド・トランプと融合され拡散される。そして、トランプ支持者の陰謀論拡散にも一役買ってしまう。そうなるとインターネットでは収まらず、テレビ業界という表の世界にまでぺぺは知られていく。
そして恐ろしいことに、なぜかマット本人がヘイト主義者としてその名を挙げられてしまう事態に……!
悲しみ落ち込んで、消極的な対策しかできなかったマットも、行き着くところまで行き着いた。ついに、仲間や弁護士の力を借り、ついに立ち上がって闘うことを決意をする。果たしてぺぺ奪回作戦は成功するのだろうか……?
本ドキュメンタリーの監督はマットの友人、アーサー・ジョーンズ
本作の才能溢れる監督は、マットの友人であるアーサー・ジョーンズ。友人マットをこの受難から救いたいという気持ちが、本作を作るきっかけになったそうだ。
友人らしい温かい目線で、マットや仲間たちへのインタビューを収録していて、マットをはじめ、人々の人柄や個性がよく伝わってくる。そしてマットの「お気楽カエルのぺぺ」への愛、さらに仲間たちが見守る中で事態がどのように変化していったかも、端々までしっかりすくい取られていてよくわかる。
本作の中で、インターネット上に溢れかえるぺぺのミームたちも、山ほど見ることができる。改変ネタを作ったり見て楽しんだり、というのはある種、インターネットに親しむ者には特別な楽しみがあるのだろう。改変はマナー違反で悪趣味ではあるが、非常に興味深い。ぺぺを改変するネット住民は、作者に恨みつらみがあるわけでももなく、作者がわからない(調べない)から気軽に、そしてある意味ぺぺに魅力を感じているからやってしまうのだろう、という意味合いも感じ取れる。
それにしてもあまりに問題は大きくなり、マットが受けたダメージも大きすぎた。そんな中、法的に闘うことを決めたマットは、ぺぺを取り戻すことができるのか? そしてそこに差す一筋の光とは何か……最後まで飽きることなく楽しめた上で身になる、素晴らしいドキュメンタリー作品だ。
作品ニュース
カラフルで豪華なパンフレットには木澤佐登志氏、町山智浩氏、佐久間裕美子氏の寄稿もあり。
とてもカラフル🌈なパンフレットの中身はこんな感じです🔽🔽🔽 pic.twitter.com/lmUvfnClPH
— 🐸映画『フィールズ・グッド・マン』🐸 (@FeelsGoodManjp) 2021年3月11日
オススメしたい『フィールズ・グッド・マン』
- ネット拡散の恐怖を目の当たりにするドキュメンタリー
- 当事者の立場を深く理解した監督の目線
- 挟み込まれたアニメーションも秀逸
- トランプ大統領誕生の歴史的なタイミング
- 八方塞がりの中、現れる一筋の光
『フィールズ・グッド・マン』作品情報
【ドキュメンタリーの内容】
米アンダーグランド・コミック界で人気のアーティスト、マット・フューリー。彼が生み出したお気楽なキャラクターカエルのぺぺが放ったセリフは「feels good man(気持ちいいぜ)」。
いつからか掲示板やSNSには、このセリフと共に“ネットミーム”として改変されたぺぺが溢れはじめる。ぺぺの乱用は加速し続け、やがてトランプ大統領の誕生に一役買うまでに! ダークで過激なインターネット時代に愛と平和を取り戻すため、マットはぺぺのイメージ奪還に乗り出すが……。
監督・脚本:アーサー・ジョーンズ
出演:出演:マット・フューリー、ジョン・マイケル・グリア、リサ・ハナウォルト、
スーザン・ブラックモア、 アレックス・ジョーンズ、ジョニー・ライアン、
カエルのぺぺ ほか
原題:FEELS GOOD MAN
配給:東風+ノーム
<2020 年/アメリカ/94 分>
2021年3月12日(金)ユーロスペース、新宿シネマカリテにてロードショー ほか全国順次公開
©2020 Feels Good Man Film LLC
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