捕虜となってイギリスの収容所へ送り込まれたナチス兵が、終戦後にサッカー選手として活躍。やがてイギリスとドイツを結ぶ平和の架け橋となったバート・トラウトマンの驚くべき実話を映画化。主演は『愛を読むひと』のデヴィッド・クロス。戦争の傷を抱きながら、ナチス兵として激しい憎しみを浴びつつ試合に挑む壮絶な姿、憎しみを愛に変える勇気が、観る者の胸を震わせるヒューマンドラマ。
2020年10月23日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
ナチス兵としての信念、小さな心のほころび
戦時中、多くの人は誤った信念を抱いているものだ。そうでなければ戦火の下で生きてはいけないし、国を信じ戦争に邁進することが正しいと思わされるよう、世の中の仕組みが出来上がっている。
決して消し去ることのできないドイツ史の汚点、ナチス・ドイツだが、当時軍国青年であった主人公トラウトマンも、ヒトラーが正しいと信じて従軍し、戦っている。
そんなトラウトマンの心にいつも引っかかっていた、目の前で命を危険にさられた少年の記憶。そのイメージが劇中で何度も登場する。それがナチス兵としての信念がほころびるきっかけだったのだろう。
信念は恥に変わり、心の古傷は残されたままに
やがてサッカーの才能を持っていたトラウトマンは、捕虜としての過酷な強制労働から逃れるため、英国の弱小サッカーチームにキーパーとして参加することになる。そしてサッカー選手として活躍し、多くの英国人との交流、英国人である妻との恋に出会う。ナチス兵だったトラウトマンの人生は、そうやって国民的サッカー選手、英雄として修正されていく。
しかし、そんな奇跡のような運命に反比例するように、過去の自分の信念が、トラウトマンを苦しめるようになっていく。本作は、元敵地で国民的な英雄となったバート・トラウトマンの数奇な運命を描いているが、やはり戦争についての物語なのである。
国ごと憎んでいる相手をどう受け入れていくのか?
戦争が終わっても、苦しめられた記憶は残る。そして、失われた人もものも戻って来ることはない。戦争で敵だった国を憎む感情は、そう簡単には消えないだろう。
疑うことなくぶつけてきた憎しみをどう手放せばいいのか。これはトラウトマンを受け入れる、英国人側の物語でもある。凝り固まったヘイトの感情を抱えている人にも、軌道修正すべき時は訪れる。
国を見ずに個人を見つめる。過去ではなく、今を見つめる。受け入れる側の勇気も本作の大切なテーマだ。
『キーパー ある兵士の奇跡』みどころ
- 実在のサッカー選手、バート・トラウトマンの数奇かつ壮絶な運命
- デヴィッド・クロス、フレイア・メーバーら魅力あるキャスト
- ヘイトを手放していく人たちの生き様
- ナチスドイツ側の苦しみを知る
大ブーイングの試合、バッシングを浴びるばかりの会見、大怪我を負いながらゴールに立ち続ける意地、思いがけぬ悲しみ……トラウトマンが窮地に立たされ抗うたびに、その大いなる思いを受け取ることができる。
『キーパー ある兵士の奇跡』作品情報
【あらすじ】
第二次世界大戦中、ナチスの兵士のバート・トラウトマン(デヴィッド・クロス)は捕虜となり、イギリスの収容所に送り込まれる。収容所で終戦を迎えるが、すぐには帰国できなかった。
ある時、地元のサッカーチームの監督、ジャック・フライアー(ジョン・ヘンショウ)が、キーパーとしての才能を見出したトラウトマンを連れ出し、試合に出場させる。「ナチスとプレーできるか」と選手たちは怒り出すが、連敗続きでスポンサーからも見捨てられそうになっていたチームは、トラウトマンの名セーブで久しぶりに圧勝。ジャックはトラウトマンを繋ぎ止めるために自分の食料品店で働かせることにする。
ジャックの娘マーガレット(フレイア・メーバー)はトラウトマンに「ドイツ軍は友達の命を奪った。私たちの青春も」と敵意をぶつけるが「戦うより君と踊りたかった。選べなかった」という彼の言葉に心を動かされる。そしてチームがリーグ残留をかけた試合の1週間前、収容所の閉鎖が発表された。しかし、トラウトマンはドイツには帰らず「チームを助ける」とイギリスに残ることを決め……。
監督:マルクス・H・ローゼンミュラー
出演:デヴィッド・クロス(『愛を読むひと』)、フレイア・メーバー(『サンシャイン/歌声が響く街』)、ジョン・ヘンショウ(『天使の分け前』)、デイヴ・ジョーンズ(『わたしは、ダニエル・ブレイク』) ほか
英題:The Keeper
配給:松竹
字幕翻訳:牧野琴子
<2018年/イギリス・ドイツ/英語・ドイツ語/119分/スコープ/カラー/5.1ch>
2020年10月23日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
©2018 Lieblingsfilm & Zephyr Films Trautmann
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