アメリカ映画界の新鋭、ジム・カミングスが、監督・脚本・編集・音楽・主演と5役を務め、2016年サンダンス映画祭で短編グランプリとなった12分の作品『Thunder Road』を長編化。何をやっても空回りばかりの冴えない警官ジムと、幼いおてんば盛りの娘クリスタルが織りなす、笑いと涙溢れるオフビートのハートフルコメディ。
2020年6月19日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
笑いに漂う絶妙な哀愁のバランス
若干マザコンの傾向がありそうな男・ジムの母が亡くなってしまった。なのに、別居中の妻にはすでに恋人がいて何やら楽しげ。幼い娘までも奪われてしまいそう。そんな中仕事も失敗続きで、つい奇行に走ってしまい今にも精神崩壊しそうなジム。
本人にとって悲劇である状況こそ、外から見て入ればコメディに映るのはお約束。そんな調子でニヤニヤ見ていると、どこで線引きしたものか、第三者の目から見ても、これちょっとシャレにならないかも…そりゃ辛いよな、なんて笑って見過ごすことのできないエピソードや事件も織り込まれて行く。
そんな「笑いの合間に哀愁」という駆け引きをされるうちに、いつの間にか主人公ジムの魅力に引き摺り込まれてしまう。
不器用な父とおてんば盛りの娘との関係
別居中の妻との子、おませな娘・クリスタルとはコンスタントに一緒に過ごす。中年男のジムには理解しがたい年頃の女の子であり、その上クリスタルはかなり個性的でエネルギッシュ。不器用かつ、ちょっと精神的に弱っているジムには、非常に手に余る。だけど、娘への愛は本物だ。
噛み合わないやり取りの中、ちょっとずつ距離を縮めて行く父と娘。親子だけど、まるで恋愛みたいにじれったく、微笑ましい関係が、観ている者の心をくすぐる。
誰かの死、家族への言えない想い……人生は切ないもので溢れてる
冒頭からして、母親の葬儀のシーンである本作。感情の振り幅が激しくなっている状態で多くの人が集う「葬儀」というイベントでは、生々しい人間関係がのぞけて見えたりして現実でだって、オフビートコメディになってしまうこともある……いかに当人たちが心底悲しんでいるとしてもだ。
とはいえ、目の前に現れた「死」というものは、やはり当事者に、哀しみと痛みで強いインパクトを与える。この作品には、複数の死にまつわるエピソードが登場する。本作は、生きていれば何度も出会う「自分以外の人の死」にも、想いを馳せるきっかけになるだろう。
そしていつの間にか距離ができてしまった人たちへの思い。生きていれば伝えられる、でも死んでしまえば二度と伝えられない。偶発的に伝えることになったり、伝えられずに終わり後悔することになったり……。
ああ、人生は切なさでいっぱいだな、と観終えた後に、なぜか温かい気持ちで呟くことができる。オフビートコメディながら、そんな愛に溢れた作品だ。
作品ニュース
短編も公開中
本作のオープニングシーンの元となった、2016年サンダンス映画祭短編グランプリ受賞の12分の短編を公開中(ただし、日本語字幕はナシ)。以下のツイート内のリンクから見られる。
2016年サンダンス映画祭でグランプリを獲得した短編「Thunder Road」https://t.co/E0PQjO8M4k を、ジム・カミングス監督自らが長編映画化!
— 映画『サンダーロード』公式 (@thunderroadmov1) 2020年4月7日
2018年SXSW映画祭グランプリ受賞作!6月19日より新宿武蔵野館ほか全国で順次公開決定!https://t.co/cECTXcTOxB pic.twitter.com/gXcltYbv8c
オススメしたい『サンダーロード』
- 距離を縮めていく、父と娘の微笑ましい関係
- 全編に溢れる心地よいオフビートのセンス
- 人生の哀愁が詰まってたエピソード
どちらかというと「今人生うまくいってない」という人にオススメしたい、ほろ苦さと愛情溢れる作品だ。
『サンダーロード』作品情報
【あらすじ】
テキサス州の警官ジムが敬愛していた母の葬儀が執り行われる。ジムはその場で母が好きだったブルース・スプリングスティーンの「涙のサンダーロード」を流そうとするが、ラジカセが壊れて曲が流れない。無音の中、口頭で曲を説明しながら涙ながらに踊り出すジム。そして日常に戻っても、警官という仕事でも空回りばかり、すでに恋人がいる妻とは別居中と、全てが冴えない。やがて「葬儀で奇行に走った」ヤバイ男として幼い娘の親権も奪われそうになりながら、壊れゆくジム。そんな中でもぎこちない関係だった娘と、少しずつ親子として距離を縮めていくが……。果たしてジムは愛する娘のヒーローになれるのか?!
監督・脚本・編集・音楽・主演:ジム・カミングス
出演:ケンダル・ファー、ニカン・ロビンソン、ジョセリン・デボアー、
チェルシー・エドマンドソン、メイコン・ブレア、ビル・ワイズ ほか
原題:Thunder Road
配給:ブロードウェイ
<2018年/アメリカ/カラー/92分/DCP>
2020年6月19日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
<公式サイト>
http:// https://thunder-road.net-broadway.com/
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(本ページの情報は2020年6月時点のものです。最新の配信状況は U-NEXT サイトにてご確認ください。)