東京・ミニシアター生活

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【4/5公開】『希望の灯り』ままならぬ人生が輝きを放つとき…素朴で風変わりな仲間と働く穏やかな日々

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旧東ドイツ出身、文壇の異端児クレメンス・マイヤーの短編を映像化。巨大スーパーで働く人々を通し、どんな人生にも輝く瞬間があることを教えてくれるヒューマンドラマだ。切なく美しい映像と、じわじわと温もり押し寄せる繊細な演出と機微な表現に、心震わされる良作。

2019年4月5日(金Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開

無口な青年が得た新しい職場、そしてロマンス

巨大スーパーマーケットで、27歳の青年クリスティアンが、深夜の倉庫係として採用されるところからドラマは始まる。首や腕のタトゥーをユニフォームで隠す無口なクリスティアンは、なんとなく物悲しそうな雰囲気をたたえている。

素朴な職場の人々はだれもが、若いクリスティアンにさりげなく温かく接する。ここでは仲間同士、お互いに静かな肯定があり、淡い友情でゆるやかに結びついているのだった。

クリスティアンが、年上の女性マリオンに恋心を抱くと「彼女は既婚者だ」と忠告はしつつ、みんながその恋を見守り、あるいは応援する。そうした反応の根底にあるのは、傷ある者だけが持ち得る優しさだ。

一方、クリスティアンは口下手だが、マリオンには積極的にアプローチ。サプライズを用意し、話しかけ、彼女の心に触れていく。そんなクリスティアンを、憧れの人マリオンは静かに受け入れる。

虐げられてきた香りがする青年・クリスティアンを好演しているのは、ドイツアカデミー賞主演男優賞も受賞している、フランツ・ロゴフスキ。ドイツの旬な俳優で、舞台でダンサーや振付師も務めているという。

年上のミステリアスな女性、マリオンを演じるのは『ありがとうトニ・エルドマン』の娘役で強い印象を残したザンドラ・ヒュラー。2人の演じるロマンスは、とても情緒があり奥深い。

ドイツの東西再統一が人々の胸に残したものは

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本作を撮ったのは「アキ・カウリスマキ監督の寂しさとユーモアを愛している」というトーマス・ステューバー監督。原作は、”東欧版トレインスポッティング”と評されたベストセラー小説を生んだ1977年生まれのクレメンス・マイヤー。2人はとてもウマが合うそうで、すでに何度かタッグを組んで映画を制作してきている。

2人とも旧東ドイツ生まれ。本作に「再統一」という言葉が何度も出てくる通り、ベルリンの壁崩壊の1990年は、すべてのドイツの人々にとって激動の時代だったという。東ドイツの産業後退は失業者を生んだが、一方で生活が豊かになった人もいる。しかし、この時代を経験した人は、東西再統一について、単純には語れないという。

そもそも人が時代を懐かしむのは、一般的な”いい時代”とは限らない。自分が若く勢いがあったころならば、むしろ楽でない時代を懐かしむことだってあるだろう。労働者なら、自分が元気に働いた自分を懐かしく思うかもしれない。クリスティアンの父親のような上司、50代のブルーノも、若き日に過ごした旧東ドイツ時代に郷愁を抱く。

旧東ドイツ時代の若き日を思いながら働く人、職場にしか所属せず漠然とした孤独と不安を抱いたまま働く人。さまざまな労働者の立場や気持ちを映している本作は「働く人々へのリスペクト」が1つのテーマになっている。そして、時代に取り残され、ともすれば忘れられた存在になってしまう社会の片隅に生きる人々…彼らの小さな幸せを、美しく切なく浮かび上がらせる。


叙情的な空気とユーモアとがないまぜに

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美しい映像もこの作品の魅力であり、冒頭のシーンから引き込まれる。監督が「フォークリフトバレエ」と名付けた、スーパーマーケットのバックヤードを優雅に観せる場面では、夜間の倉庫がまるで小宇宙や波立つ海のように描かれている。

主人公クリスティアンの夜勤明け、その薄明るい時間帯に、長距離トラックだけが通り過ぎるアウトバーン(速度無制限の高速道路)の荒涼とした雰囲気も心にしみる。

そんな風景のバックに流れるのは、バッハやヨハン・シュトラウスなどのクラシック音楽、そして労働者の音楽ブルーズだ。聖なるクリスマスミュージックも、クリスティアンとマリオンの関係を美しく彩る。

風景も音楽も人々のやりとりも、とても叙情的な美しい作品だが、もちろんユーモアも忘れていない。職場の仲間同士の悪ふざけ、ウィットに富んだ会話。さらに悪趣味な「フォークリフト研修用映像」は、最低で最高。 人生を楽しむには、ユーモアが必要だと教えてくれる。

哀愁とユーモアがないまぜになっている本作には、さらに、後で胸がキュッとなるような伏線がそこここに組み込まれている。そのサインを受け取った時に、泣くか笑うかは、観るものに委ねられているのだろう。 

作品ニュース

4月6日初回にドイツ菓子をプレゼント

公開日翌日の土曜日、Bunkamuraル・シネマでは、午前中の初回上映を観に行くと、なんと来場者全員に、ドイツのお菓子をプレゼントしてくれる。ドイツ風味の味で、より映画の世界観にハマれるかも。


谷川俊太郎や加藤登紀子のコメントも

著名人のコメントを集めたフライヤーが完成している。作品を観る前でも観た後でも、フライヤーを見かけたら手に取って読んでみては。あなたが共感するのは誰の言葉だろう?

 

オススメしたい『希望の灯り』

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  • スーパーマーケットを小宇宙に変える見事な映像
  • すべての働く人へ捧げられた賛歌
  • ドイツ再統一の哀愁に満ちた、美しい東ドイツ近郊の風景
  • 旬な俳優によるユーモアとロマンス
  • 小さな幸せ、切ない孤独…目配せのような伏線がいっぱい

宝石のようなアイディア、隅々まで行き渡った心温まる演出、無名な人々をほのかに照らし出してくれる優しさと、踏み込むほどに味わいが深まる美しい作品だ。


『希望の灯り』作品情報

【あらすじ】
タトゥーのある内気な青年、27歳のクリスティアンは、旧東ドイツ・ライプツィヒ近郊の巨大スーパーマーケットで、在庫管理係として働き始める。クリスティアンに仕事を教えるのは50代の男性ブルーノ。働く人だれもが、無口なクリスティアンに素朴ながら暖かく、親切に接してくれた。職場は、クリスティアンの居心地のいい場所となっていく。あるとき、クリスティアンは、ミステリアスな女性に目を留める。菓子担当の年上の女性マリオン、彼女に一目惚れをした。そして、コーヒーマシンのある休憩場所で、クリスティアンはマリオンに声をかけられ…。

監督・脚本:トーマス・ステューバー
原作・脚本:クレメンス・マイヤー

出演:​フランツ・ロゴフスキ(『ハッピーエンド』『未来を乗り換えた男』)、ザンドラ・ヒュラー(『ありがとう、トニ・エルドマン』)、ペーター・クルト、アンドレアス・レオポルド、ミヒャエル・シュペヒト、ラモナ・クランツェ=リブノウ ほか
原題:In den Gängen/英題:In the Aisles
配給:彩プロ
<2018年/ドイツ/125分/カラー/ヨーロピアンビスタ/5.1ch>
2019年4月5日(金Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開

© 2018 Sommerhaus Filmproduktion GmbH

kibou-akari.ayapro.ne.jp

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