五・七・五・七・七の三十一音が基本の短歌。本作はこの短歌を原作としている、4話の長編オムニバス作品だ。
原作となった短歌は「光」をテーマとしていて、本作への映像化を前提とした短歌コンテストが行われ、その中から選出された4首。
もともと良き短歌とは、情景が映像のように浮かぶものだという。本作では、各章とも映像と短歌が溶け合っていくような、コラボレーションを見せてくれる。
どこか孤独でありながら、誰かを優しく思いやる……そんな4人の女性が、それぞれの話のヒロインだ。
2019年1月12日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
4章それぞれのヒロインの、ナチュラルな輝き
各話のヒロインを演じているのは、北村美岬、伊東茄那(かな)、笠島智(かさじま・とも)、並⽊愛枝(あきえ)の4人の女優。それぞれナチュラルなキャラクターを等身大で演じている。
4人の中で、最も実績を積んできた女優は、第4話のヒロインを演じた並⽊愛枝。かなりの実力派と評判の高く、映画『14歳』(2007年公開、監督:廣末哲万)で、第22回高崎映画祭・最優秀助演女優賞を受賞。さらに、映画『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(『2008年公開、監督:若松孝二)では、新左翼活動家・永田洋子を演じ、第2回アジア太平洋映画賞(APSA)・最優秀女優賞アジアの5人に選出されている。
そんな並⽊も本作では、落ち着いた慈愛に満ちた市井の女性を演じる。ただそこにいるだけで強い内面を感じさせる、しなやかな存在感が見事だ。
各章に登場するアマチュアヴォーカリスト
本作のタイトルに含まれる”歌”だが、これは短歌という意味だけではないようだ。歌唱する歌も作中に登場する。4話いずれのストーリーも、ヒロインを含む登場人物のうち、誰かがヴォーカリストなのだ。
アマチュアイズムを感じさせるタイプの、素朴だったり、ちょっとヘンテコだったりする歌が、さまざまなライブシーン(ときには定食屋で)歌われる。
彼らは、日常に歌や音楽がある人たちだ。同じように日々音楽に触れている人には、より親近感が湧く物語、リアルな情景として心に響くだろう。
映像の結びに現れる短歌は、すっと心に馴染んでいく
各章(各話)の冒頭近くで、原作となった短歌がスクリーンに浮かぶ。原作の短歌なので当然ではあるが、見事にラストシーンにマッチする。あるいは最終的に、ヒロインが詠み人となったようにも見える。腑に落ちる、というか心地よくはまる加減がとてもいい。
第1章 反対になった電池が光らない理由だなんて思えなかった(加賀田優子)
第2章 自販機の光にふらふら歩み寄りごめんなさいってつぶやいていた(宇津つよし)
第3章 始発待つ光のなかでピーナツは未来の車みたいなかたち(後藤グミ)
第4章 100円の傘を通してこの街の看板すべてぼんやり光る(沖川泰平)
作品ニュース
クラウドファンディング目標金額を上回り達成
クラウドファンディングによる支援を求めることが多い、ミニシアター系作品。本作もチャレンジし、目標金額を達成した。公開前から、期待値の高い作品であることがわかる。
💡『ひかりの歌』クラウドファンディング、終了しました。目標金額60万円のところ、79人の方々から88万1千円のご支援をいただきました。目標を大きく超えるご支援を賜りまして、キャスト・スタッフ一同、心より感謝申し上げます。気持ちを引き締め、がんばってまいります。https://t.co/pzjlZ5QlQU pic.twitter.com/UQIpqPyQj8
— 『ひかりの歌』1/12より公開💡 (@lyssupport) December 28, 2018
心温まる作品にふさわしい「草の根宣伝」
公開初日に向け、本作関係者が飲食店や映画館などに足を運び、草の根宣伝を続けている模様。
「ここでフライヤーを置いてもらった」「ポスターを貼ってもらった」といった、ツイートが『ひかりの歌』公式アカウントから連投されている。「ガンバレ〜!」と応援の言葉をリアルにつぶやきたくなるほどの連投だ。
💡大阪・北新地の「BAR 一騎討ち」さんが『ひかりの歌』チラシを貼ってくださいました❗️
— 『ひかりの歌』1/12より公開💡 (@lyssupport) January 8, 2019
ありがとうございます🙇♀️🙇♂️https://t.co/PZBrHEtbfe pic.twitter.com/ggHKQouG2v
オススメしたい『ひかりの歌』
- 呼吸をするようにナチュラルでリアルなヒロインと演技者
- さまざまなアマチュアミュージシャンの存在
- 短歌と映像のコラボレーションの巧みさ
- 誰かを思うヒロインを優しい眼差しで見守るような世界感
本作は、だれもが声を張ることなく、力がこめず、のびのびと演じている。力まず自由に演じているところに、ドキュメンタリーと見間違える場面もある。
おそらく、実際に演技未体験という出演者もいるだろう。アマチュアイズムを感じさせる俳優もいれば、プロフェッショナルを感じさせる俳優もいて、両者が混在しているのが面白い。しかし、それが決して不自然ではない。
4話いずれのヒロインとも、だれもが少し寂しそうであり、孤独を抱えているようで切ない。しかし「カメラの視線」は彼女たちを暖かい眼差しで見守り、彼女たちを照らすような光のぬくもりがある。
そんな世界観により、観終えると、孤独を知りつつも心がほっこりと温かくなるような感覚を味わえるだろう。
『ひかりの歌』作品情報
【あらすじ】
4話(章)の長編オムニバス作品。舞台は都内近郊。誰かを深く思いながら、それを胸に秘めたままのヒロインたちの日々と、次へと踏み出す一歩を描く。キャッチコピーは"だれかがをおもう気持ちがこの世界のひかりになる"
各ヒロインは、高校の美術臨時講師をしている詩織(第1章)、閉店近いガソリンスタンドで働き、アマチュアランナーでもある今日子(第2章)、亡き父への思い出の地・北海道へ旅するヴォーカリスト雪子(第3章)、長く行方不明だった夫が突然帰ってくるも、動揺せず受け入れる幸子(第4章)。
監督・脚本:杉⽥協⼠
原作短歌:加賀⽥優⼦、後藤グミ、宇津つよし、沖川泰平
出演:北村美岬、伊東茄那、笠島智、並⽊愛枝、廣末哲万、⽇髙啓介、⾦⼦岳憲、松本勝、⻄⽥夏奈⼦、渡辺拓真、深井順⼦ 佐藤克明、橋⼝義⼤、柚⽊政則、柚⽊澄江、中静将也、⽩⽊浩介、島村吉典、鎌滝和孝、鎌滝富⼠⼦、内⾨侑也、⽊村朋哉、菊池有希⼦、⼩島歩美、岡本陽介 ほか
配給:Genuine Light Picture
<2017年/日本/153分/カラー/スタンダード/G>
2019年1月12日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
© 光の短歌映画プロジェクト
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(本ページの情報は2019年1月時点のものです。最新の配信状況は U-NEXT サイトにてご確認ください。)