『かぞくのくに』など、在日コリヤン家族の物語を綴ってきたヤン ヨンヒ監督が、自身のオモニ(母)を撮ったドキュメンタリー。北朝鮮を信じ、極端な行動をしてきた母を、心の中で責めてきたというヨンヒ監督。年老いた母はある日、心の奥底に秘めてきた恐怖体験「済州4・3(チェジュド、ヨン・サン)事件」について突然、娘のヨンヒ監督に語り始める。それをきっかけに、母がなぜ頑なに“北”を信じてきたのかが見えてくるのだが、同時に母のアルツハイマー型認知症が進行していく…。
仲が良くも、強いわだかまりも抱えていた母娘の関係が解かれていく展開、済州島の迫力ある風景など、観ごたえたっぷりのドキュメンタリー作品。
2022年6月11日(土)より[東京]ユーロスペース、ポレポレ東中野、
[大阪]シネマート心斎橋、第七藝術劇場にて ほか全国の映画館で順次公開!
母の生き様を見つめたヨンヒ監督
在日コリヤンであるヤン ヨンヒ監督の両親は、朝鮮総連の熱心な活動家であり、北朝鮮を盲目的と言えるほど信じていた。「帰国事業」で3人の兄を全員北朝鮮へ送り出してしまったうえ、身の丈に合わぬほどの金額の送金を繰り返し、借金まで重ねてしまっていた。ヨンヒ監督は、父や母の行動に若い頃から不満を募らせてきていた。
そんなわだかまりを抱えつつも、美味しいスープを作って年下の夫(=荒井カオル)も歓迎してくれる母は、やはりヨンヒ監督にとって唯一無二の存在だ。
だが高齢になった母に認知症の兆しが見え始める。そしてある日、唐突に母は18歳ごろ経験した恐ろしい光景を、ヨンヒ監督に話して聞かせた。それは母が済州島で体験した「済州4・3事件」だった。
「済州4・3事件」とは
ある日突然、母が語り出した済州島での恐怖の記憶。1948年に起きた「済州4・3(チェジュド、ヨン・サン)事件」とは「韓国現代史最大のタブー」とも呼ばれている。
1948年、南朝鮮当局が南側単独選挙を行うことを決断、これに対し済州島の島民が蜂起すると、南朝鮮国防警備隊、韓国軍、韓国警察、朝鮮半島の李承晩支持者などが制圧と称し、島民虐殺を行った。残酷な大虐殺で、何万人もの島民が命を落としたという。
どうやらヨンヒ監督の母は、18歳という若き日、その渦中にいたらしい。目の前で人が人の命を残虐な方法で次々奪うという地獄絵図を体験し、死の恐怖と戦いながらひっそり、きょうだいらとともに済州島を脱出したという。
母はそれまでこの経験について、ヨンヒ監督に一切話したことがなかった。そして後日「済州4・3事件」について調べている人々を家に招き、体験した詳細について再び話した。しかしその日を境に、母のアルツハイマーは急速に進行してしまう。
母と夫を連れ済州島の旅へ
南を厭ったから、北を信じたのか。一人の女性としての母の生き様が見えてきたヨンヒ監督。しかし、胸の奥底に沈めていた恐怖の記憶を解き放った途端、母のアルツハイマーが進行し、あらゆる物事が記憶から抜け落ちていく。
ポロポロと母がこぼしていく母の記憶を掬い取るかのように、ヨンヒ監督は夫とともに、車いすを使うようになった母を連れて、現場である済州島へと旅立つ。
済州島では、事件に関係する人々との出会いがあった。そして、ヨンヒ監督の胸によぎる想いとは……。見事に晴れ渡った空の下、戸惑ったように微笑する母。人々の哀しみ、美しい海、母の優しさ、歴史の残酷さ。そこで全てが混じり合う。
作品ニュース
パンフレットにはレシピも掲載
重い歴史を紐解く一方で、母の作るスープにも着目した本作ならではのパンフレット。
スープなどのレシピも掲載!映画を観たら絶対作りたくなる&食べたくなるスープ😆🥣🧄にぜひチャレンジを!
— 映画『スープとイデオロギー』ヤン ヨンヒ監督最新作 (@soupandideology) 2022年6月9日
さらに済州島ギャラリー紹介も。行ったことのある人も、ない人も、その土地の歴史に触れ、文化に出会い、“スープとイデオロギー”という監督がタイトルに込めた想いを共有できたら嬉しいです✨ https://t.co/ByQ4nz1mdi pic.twitter.com/e7SmcCYmYR
オススメしたい『スープとイデオロギー』
- ヤン ヨンヒ監督の母が語る「済州4・3事件」の恐怖
- 心の奥に秘めた記憶を語ると同時に、母は認知症が進行
- 母と夫の姿を撮り、ナレーションも務める監督の思い
- 済州島での出会い、島の美しく哀しい風景
『スープとイデオロギー』作品情報
【内容】
朝鮮総連の熱心な活動家だった両親は「帰国事業」で3人の兄たちを全員北朝鮮へ送ってしまった。父が他界したあとも、“地上の楽園”にいるはずの息子たちへ、借金をしてまで仕送りを続ける母を、ヨンヒ監督は心の中で責めてきた。
そんな年老いた母が、娘のヨンヒにはじめて打ち明けた壮絶な体験・・・1948年、当時18歳の母は韓国現代史最大のタブーといわれる「済州4・3事件」の渦中にいた。心の奥底にしまっていた記憶を語りながら、母はアルツハイマー病を患う。ヨンヒ監督は消えゆく記憶を掬い取ろうと、母を済州島に連れていくことを決意する。
監督・脚本・ナレーション:ヤン ヨンヒ
撮影監督:加藤孝信 編集・プロデューサー:ベクホ・ジェイジェイ
音楽監督:チョ・ヨンウク(『お嬢さん』『タクシー運転手 約束は海を越えて』)
アニメーション原画:こしだミカ アニメーション衣装デザイン:美馬佐安子
エグゼクティブ・プロデューサー:荒井カオル
原題:Soup and Ideology
配給:東風
〈韓国・日本/2021/日本語・韓国語/カラー/DCP/118分〉
2022年6月11日(土)より[東京]ユーロスペース、ポレポレ東中野、
[大阪]シネマート心斎橋、第七藝術劇場にて ほか全国の映画館で順次公開!






©️PLACE TO BE, Yang Yonghi
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